九州地盤のディスカウントストア大手、トライアルホールディングス(HD)。同社には小売業の他に、AI(人工知能)の開発企業というもう1つの顔がある。来店客の行動や商品の売れ行きを分析するカメラや、レジを不要とする決済機能付きカートを開発。自社店舗に導入するだけでなく、ライバル店舗への販売も始めた。そこには、プロダクトアウト思考から脱せない大手ベンダーに対するアンチテーゼがあった。

トライアルの店舗は九州を中心に、人口減に直面する地方部に多い
トライアルの店舗は九州を中心に、人口減に直面する地方部に多い

 福岡市と北九州市のほぼ真ん中に位置する福岡県宮若市。明治から昭和にかけては炭鉱町として栄え、最盛期には6万人を超える人々が住んでいたが、今では3万人を下回る。緩やかに衰退を続けるこの町で2020年、新たなプロジェクト「リモートワークタウン ムスブ宮若」が立ち上がった。

 17年3月に閉校した旧吉川小学校。子どもたちが姿を消した建物が今、AI(人工知能)の開発拠点に生まれ変わろうとしている。建物の横では、そこで働く技術者たちのための社員寮の建設が進む。プロジェクトを進めているのは、九州を中心にディスカウントストア「トライアル」を約260店舗展開するトライアルHDだ。なぜ小売業の同社がAIの開発を進めるのか。そして、なぜその舞台が人口減少が続く宮若市なのか。それは小売業が直面する課題がこの地に凝縮されているからだ。

少子高齢化により閉校になった小学校の校舎が、AIの開発拠点に生まれ変わる
少子高齢化により閉校になった小学校の校舎が、AIの開発拠点に生まれ変わる

 トライアルは18年2月、福岡市の人工島・アイランドシティに同社初となる「スマートストア」をオープンした。スマートストアとは、AIやIoTなどのデジタル技術を使って店舗運営を効率化する次世代型の店舗のことだ。具体的には、店内にカメラをくまなく設置して、来店客の行動を分析し、商品の欠品状況をチェック。また、カートにバーコードリーダーが取り付けられており、来店客自身がスキャンし、事前に入金したプリペイドカードで支払うことで、レジを通ることなく決済が完了する。

 トライアルが異色なのは、これらの技術を自社で開発したことだ。従来、NECやパナソニック、東芝テックといった企業のソリューションを導入することが多かった。しかし、トライアルHDの亀田晃一社長は「我々が求めるコストと大手ベンダーが提示する金額はケタが1つ違った。内製化したほうが安いと判断した」と話す。

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