劇場版の興行収入が日本国内だけでも400億円を超えたアニメ「鬼滅の刃」。アニメ制作に加え、主題歌なども手掛けたソニーグループ(ソニーG)には大きな収益がもたらされた。ただしソニーGのエンタメ事業全体で見れば、「鬼滅」効果はさほど大きくない。2021年3月期のゲームと音楽、映画などエンタメ部門の売上高は単純合算で4兆3000億円を超え、営業利益も6000億円に達している。なぜ、ソニーGはエンタメで稼げるのか。

お笑い芸人、狩野英孝さんのゲーム実況動画が人気を博している(写真:的野弘路)
お笑い芸人、狩野英孝さんのゲーム実況動画が人気を博している(写真:的野弘路)

 「あれ、見失った」「どこ行った?」「やばいやばい」。CyberZ(東京・渋谷)の動画配信プラットフォーム「OPENREC.tv」のスタジオで6月中旬、お笑い芸人の狩野英孝さんがゲームのプレー風景を「実況中継」していた。手に持つのは「プレイステーション(PS)4」のコントローラー。本人は意識していないだろうが、実は狩野さん、ソニーのゲーム事業の急成長を支える陰の立役者の1人なのだ。

 ゲーム実況は、新型コロナ禍の巣ごもりで急成長した新たな動画コンテンツだ。米ストリームラボによると、2020年の世界の総視聴時間は前年比約2倍の279億時間。ゲーム作品の売れ行きを左右するため、米国では昨年、プロの実況者が数十億円の移籍金で競合に引き抜かれるケースも起きている。

 狩野さんは日本を代表するゲーム実況者の1人。20年初頭に実況動画の配信を始めると、トラブルに直面した際のパニックぶりが話題となって一気にブレーク。「YouTube」のチャンネル登録者数は100万人を超えた。ゲームエイジ総研(東京・渋谷)による20年のゲーム実況者ランキングでは、女優の本田翼さんを上回り8位に入った。

 スタイルもひと味違う。世界で人気のゲーム実況者は、高度な技を披露して視聴者を集める。ただ狩野さんは正直なところ上手とは言えない。だからこそファンは放っておけない。「困ったらチャットで助けてくれるし、クリアしたらみんなで盛り上がれる」と狩野さんは笑う。

 ソニーのエンタメ事業として今、真っ先に思いつくのはアニメ「鬼滅の刃」だろう。20年に公開した劇場版は国内興行収入が400億円を超えた。ただしソニー全体で考えると、その効果は限定的だ。21年3月期のエンタメ部門売上高はゲームと音楽、映画の単純合計で約4兆3500億円に達している。

 中でも急成長しているのがゲーム事業だ。ソニーの稼ぎ頭をなぜ、お笑い芸人の狩野さんが支えていると言えるのか。3つのステップで見ていこう。

ゲーム攻略の「3ステップ」

 まずはゲーム機の販売だ。狩野さんを始め、実況で使用されるゲームはPSシリーズに対応していることが多い。PS4は累計販売台数が1億台を超え、発売から7年たった20年度も570万台を売り上げた。20年末に発売された「PS5」も数カ月で780万台を売った。世界的な半導体不足の影響で品切れが続出し、足元では定価の2倍以上で転売する業者もいる。

 第2段階は月額課金。狩野さんが実況するのは複数のプレーヤーと協力・対戦するゲームが多い。PS4やPS5でオンライン対戦に参加するには、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が運営する「PSプラス」への加入が欠かせない。月額料金は契約期間によって異なるが約430~850円だ。会員数は21年3月時点で4760万人に達し、PSプラスを軸とするネットワークサービスは21年3月期に3830億円を売り上げた。任天堂の同様のサービスの会員は20年9月時点で2600万人にとどまる。

 最後はアイテムの販売だ。狩野さんが取材時にプレーしていたゲームでは、キャラクターの衣装やキャラ自体を追加で購入できる。実況動画を見つつコントローラーを操作し、動画に登場するアイテムを買うファンは少なくない。実はこれが大きな収益源だ。ソフトに追加要素を取り入れる「アドオンコンテンツ」の売上高は、21年3月期に9118億円まで増えた。

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