米大リーグは2020年、動作解析システムの「スタットキャスト」の機能を大幅に拡充した。ソニーグループが11年に買収した英ホークアイ・イノベーションズの分析サービスを用い、打球の角度や変化球の回転数などを毎秒30コマのリアルタイムで解析。エンゼルスの大谷翔平の活躍ぶりもデータで一目瞭然だ。テニスやサッカー観戦も、ソニーの技術なしでは楽しめない。(文中敬称略)

米大リーグでホームランを量産する、エンゼルスの大谷翔平選手(写真は5月17日のもの、Kevork Djansezian/Getty Images)
米大リーグでホームランを量産する、エンゼルスの大谷翔平選手(写真は5月17日のもの、Kevork Djansezian/Getty Images)

 米大リーグ(MLB)エンゼルスの大谷翔平は6月8日、ロイヤルズ戦に指名打者として出場し、第1打席で右中間に17号2ランを放った。MLBの「スタットキャスト」によると、本塁打の飛距離は470フィート(約143メートル)。メジャー移籍後の記録を19フィート上回る、自己最長の特大アーチだった。

 打球を見上げ、余裕の表情でホームベースに戻った大谷は「肘タッチ」でチームメートの祝福に応じた。

 スタットキャストはMLBが全30球団に導入する動作解析システムだ。2015年に本格稼働し、当初は弾道ミサイルの追尾システムを用いて投手の球速や打球の行方を解析していた。

12台のカメラで毎秒30コマ撮影

 MLBはこのスタットキャストを、20年シーズンから大幅に進化させた。球場内に12台の高解像度カメラを設置。球場全体のボールや選手の動きをミリメートル単位で把握して、リアルタイム映像を解析する。導入したのはソニーグループ傘下、英ホークアイ・イノベーションズのプレー分析サービスだ。

ホークアイのプレー分析サービスを使えば、投手のフォームチェックもリアルタイムでできる
ホークアイのプレー分析サービスを使えば、投手のフォームチェックもリアルタイムでできる
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 以前と違うのは、選手の3次元骨格データを把握し、毎秒30コマのハイスピード映像で解析すること。投球フォームや打者のスイング、打球の軌道、野手や走者の動きなど、フィールド上でのあらゆるプレーをより精密かつリアルタイムに確認・評価することができるようになった。

 これまでも球速や回転数、打球の飛距離などのデータを追跡できていたが、ホークアイの導入で得られる情報量が大幅に拡充された。毎秒30コマの映像と組み合わせて分析すれば、投手が変化球を投げるときの微妙な癖や、打者が苦手とするコースなども丸裸にできる。

 ホークアイが解析したデータはMLBと所属全30球団に提供され、審判技術の評価や選手の育成に使われている。大谷が所属するエンゼルスも例外ではない。一部はテレビ放送時にリアルタイムで中継されるほか、ファンもMLBの公式サイトなどで実際の数値を確認して楽しめる。

 「この選手のスタットキャストを見て! 大谷とそっくりじゃない?」。今年に入り、大谷と似たデータを示す選手をツイッターに投稿し、議論を楽しむファンが増えている。ソニーでスポーツ事業などを手掛ける、サービスビジネスグループ統括部長の宮本佳則は「一般の人のデータ感度が高まっている」と分析する。

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