「20分の壁」を破るには
「冷蔵庫から取り出すだけ」という設計にしたのは、サラダを食べたいと思ってから、実際に食べるまでの時間を縮めたかったからでもある。店舗で注文し、出来上がりを待って、となると、それ相応の時間はかかる。
「例えば、20分しか時間がないときに、我々は選ばれなかった」。宮野氏いわく、コロナ禍でこの「20分の壁」はより顕著になっているという。リモート会議が普及したことで、移動時間を加味しなくてもよくなり、以前よりも予定をぎっしり入れられるようになった。手早くランチを済ませようとなると、どうしてもコンビニにかなわない。
CRISP STATIONではカスタムサラダではなく、作り置きした8種類のサラダを並べることで、さっと手に取れるようにした。価格はどれも税込み1180円で統一。いずれも以前から「シグネチャーサラダ」として販売してきた定番商品で、通常は同1182円~1648円。店員を置かず、商品数を絞る代わりに、割安感を出した形だ。



冷蔵庫タイプであれば場所を取らず、出店費用も抑えられる。「もっとお店を増やしてほしい」「デリバリーエリアを広げてほしい」という要望に応えた1つの解が、このCRISP STATIONだった。
性善説に立つ以上、未払いなどのトラブルは避けられないが、宮野氏は言う。「皆が皆、いい人ばかりだと思っているわけではない。ここはある意味、検証店舗。お客様の利便性が上がり、そのことによって、クリスプのサラダを食べる回数が増えれば大成功と考えている。運用してみて、料金を払わない人が多いとなれば、そのときに対策を講じればいい。最初から防犯対策ばかりに力を入れるのは違うと思った」
オープン初日に立ち寄ると、物珍しさも相まって、冷蔵庫から飛ぶようにサラダが消えていった。サラダは毎朝60個並べ、なくなったら補充していく。実は、無人店舗のように見えて、食品衛生上の観点から冷蔵庫の裏側にスタッフが1人常駐している。天井に設置したカメラで、サラダの減り具合を監視しているという。どのサラダが、どれだけ売れたかを分析することで、在庫管理などに役立てる計画だ。
クリスプは、スマホで事前注文やキャッシュレス決済ができるモバイルオーダーアプリを自社で開発。そのシステムを高級食品店「ディーン&デルーカ」などの他社にも外販し、デジタル活用に力を入れている。
21年10月には調理用ロボット開発のTechMagic(テックマジック、東京・江東)と連携し、最大で287万通りのカスタムサラダを自動で供給するサラダ調理ロボットを開発すると発表した。22年7月末の店舗導入を目指している。
宮野氏が掲げるのは、テクノロジーを駆使して高成長と高収益率を両立させる「コネクティッド・レストラン」という新しい外食のビジネスモデルだ。施錠なし、レジ会計なしという大胆な「無人店舗」で狙い通り、テークアウトの顧客体験を変えられるか。確かな手応えが得られれば、出店ラッシュも見えてくる。
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