
「アードベッグ」というブランドのウイスキーをこよなく愛するファンのことを、愛好家たちは「アードベギャン」と呼ぶ。
淡路島ほどの面積に9つの蒸留所が点在する、英北部スコットランドのアイラ島。アードベッグは「スコッチウイスキーの聖地」として名高いこの島で1815年、産声を上げた。
大西洋の潮風がしみ込んだピート(泥炭)を炊き込んだモルト(大麦麦芽)のみを原料とし、口に含むと煙を飲み込んだかのような強烈な「ピート香」が鼻を抜ける。
世界で最もピーティーなシングルモルトと評されるゆえんだが、ただ煙たいだけではない。フルーティーな甘みもほのかに感じられる。煙たくて甘い――。「ピーティーパラドックス」とも形容される、その癖のある味わいがリピーターを生み、世界中でカルト的な人気を博しているのだ。
「唯一無二のウイスキー」
その人気を象徴する出来事があった。
1975年11月に樽(たる)詰めされた「アードベッグ カスク No.3」がこのほど、1600万ポンドで売却されたのだ。日本円にして約26億円。購入したのは、アジア在住の女性コレクターだという。
カスクとは熟成用の木樽のこと。アードベッグを樽ごと購入したこの女性の元には、今後5年かけて瓶に移したアードベッグが計440本届けられる予定だ。最後の1本が出荷されるまで、カスク内で熟成は続く。最終年に届くアードベッグは50年熟成となり、味わいの複雑さ、深みが増した究極の逸品になる。
1600万ポンドで瓶が440本。1本当たりに換算すると、約3万6000ポンド(約600万円)となる。ウイスキーとしては桁外れの値がついたのは、なぜなのか。
「単に古いだけではない。唯一無二のウイスキーだからだ」と語るのは、アードベッグ蒸留所のオーナー、ザ・グレンモーレンジィ・カンパニーのトマ・モラプール社長兼CEO(最高経営責任者)だ。
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