前東京五輪の水泳競技会場として建設された国立代々木競技場(1964年竣工、当時の名称は国立屋内総合競技場)が、国の重要文化財となることが内定した。今年5月21日、文化審議会(佐藤信会長)が同施設を重要文化財に指定するよう、萩生田光一文部科学相に答申した。同施設は第一体育館、第二体育館の2棟から成り、2棟ともが対象。答申通り告示されれば、重要文化財の中で最も新しい建造物となる。

国立代々木競技場第一体育館の吊り構造の屋根部分を見る(写真:大山 顕)
国立代々木競技場第一体育館の吊り構造の屋根部分を見る(写真:大山 顕)

 今度のオリンピックではハンドボール会場として使われ、世界でも珍しい「二度の五輪」を経験した競技施設となる。今回はこの国立代々木競技場の建設過程を振り返りつつ、今度の東京五輪の施設整備に何が欠けていたかを考えたい。

吊り橋のような「二重の吊り構造」

上空から見た国立代々木競技場。上が第一体育館、下が第二体育館(写真:三島 叡)
上空から見た国立代々木競技場。上が第一体育館、下が第二体育館(写真:三島 叡)

 国立代々木競技場の設計者は故・丹下健三(1913~2005年)だ。設計当時は東京大学助教授で40代後半。完成した1964年には51歳だった。

 建築史家で建築家でもある藤森照信氏は、第一体育館について「メインケーブルからさらにケーブルを架け渡す二重の吊り構造は、モダニズム建築の構造表現の頂点」と評している(『建築家が選んだ名建築ガイド』、2005年、日経BP刊より)。

第一体育館の吊り構造のイメージ図(イラスト:宮沢洋)
第一体育館の吊り構造のイメージ図(イラスト:宮沢洋)
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 藤森氏の言う「二重の吊り構造」とは、上図のような「吊り橋」に似た構造だ。なぜ吊るのかというと、1つは吊ることで屋根を構成する鉄の量を減らすことができるから。もう1つは、室内側にくぼんだ形になるので、空調する気積を減らすことができる。もちろん、内部からの見え方がダイナミックであるというのも大きな理由だ。

 

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