東京五輪で、“建築”として、特に注目してほしい競技施設とその見どころ、1964年に開催された前東京五輪との比較などを、写真とイラストを交え、5回にわたって紹介する。
(1)「幻のザハ案」があって実現した高コスパの隈流「国立競技場」
(2)1人の天才よりチーム力、東京五輪「3大アリーナ」の魅力
(3)代々木競技場は世界遺産級、まさに「レガシー」残した1964東京五輪
(4)新旧五輪施設プロセス比較、コロナで緩和された「がっかり感」
(5)無観客でも満席に見える 「未来予知」と話題の国立競技場を疑似体験
前東京五輪の水泳競技会場として建設された国立代々木競技場(1964年竣工、当時の名称は国立屋内総合競技場)が、国の重要文化財となることが内定した。今年5月21日、文化審議会(佐藤信会長)が同施設を重要文化財に指定するよう、萩生田光一文部科学相に答申した。同施設は第一体育館、第二体育館の2棟から成り、2棟ともが対象。答申通り告示されれば、重要文化財の中で最も新しい建造物となる。

今度のオリンピックではハンドボール会場として使われ、世界でも珍しい「二度の五輪」を経験した競技施設となる。今回はこの国立代々木競技場の建設過程を振り返りつつ、今度の東京五輪の施設整備に何が欠けていたかを考えたい。
吊り橋のような「二重の吊り構造」

国立代々木競技場の設計者は故・丹下健三(1913~2005年)だ。設計当時は東京大学助教授で40代後半。完成した1964年には51歳だった。
建築史家で建築家でもある藤森照信氏は、第一体育館について「メインケーブルからさらにケーブルを架け渡す二重の吊り構造は、モダニズム建築の構造表現の頂点」と評している(『建築家が選んだ名建築ガイド』、2005年、日経BP刊より)。
藤森氏の言う「二重の吊り構造」とは、上図のような「吊り橋」に似た構造だ。なぜ吊るのかというと、1つは吊ることで屋根を構成する鉄の量を減らすことができるから。もう1つは、室内側にくぼんだ形になるので、空調する気積を減らすことができる。もちろん、内部からの見え方がダイナミックであるというのも大きな理由だ。
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