東京五輪で、“建築”として、特に注目してほしい競技施設とその見どころ、1964年に開催された前東京五輪との比較などを、写真とイラストを交え、5回にわたって紹介する。
(1)「幻のザハ案」があって実現した高コスパの隈流「国立競技場」
(2)1人の天才よりチーム力、東京五輪「3大アリーナ」の魅力
(3)代々木競技場は世界遺産級、まさに「レガシー」残した1964東京五輪
(4)新旧五輪施設プロセス比較、コロナで緩和された「がっかり感」
(5)無観客でも満席に見える 「未来予知」と話題の国立競技場を疑似体験
今回の東京五輪・パラリンピックのために新設された大規模施設は、前回紹介した「国立競技場」のほかに3つある。これらはいずれも屋根で覆われた全天候型の競技施設で、関係者の間では「3大アリーナ」とも呼ばれている。
3大アリーナは「東京アクアティクスセンター」「有明アリーナ」「有明体操競技場」の3つだ。今回はそれぞれの「造り方」に着目しつつ、見どころを紹介する。

1つ目の「東京アクアティクスセンター」は、江東区の「辰巳の森海浜公園」内にある(東京都江東区辰巳2-2-1)。五輪・パラリンピックともに水泳の競技会場となる。発注者は東京都。大会時の席数は約1万5000席で、大会後は4階観客席の大部分を撤去し、約5000席に減らす。
基本設計を山下設計が手掛け、実施設計と施工は大林組・東光電気工事・エルゴテック・東洋熱工業JVが担当した。整備費は大会後の改修費も含め567億円(工事費はいずれも2019年時点)。
地上で屋根を造ってリフトアップ
建物の形は、「四角すいの上部を切断してひっくり返し、それを2つ重ねた形」といえば伝わるだろうか。屋根は約130m×約160mの長方形で、ほぼフラット。この施設のポイントは、この大屋根をどうやって架けたかだ。

大屋根は四隅にある「コア柱」の上に載っている。普通は柱を建ててから屋根を架けるが、ここでは屋根を造りながら柱も建てた。
どういうことかというと、屋根を「屋根の高さ」ではなく、地上に置いて造ったのだ(「地組み」と呼ぶ)。基礎工事が終わった後、ただちに地上部で屋根の鉄骨を組み始める。屋根製作と並行して柱も建てる。両者の骨格ができた段階で、屋根を上に持ち上げる。4本のコア柱に各8本のワイヤを設置し、屋根を一気に吊り上げる。「リフトアップ工法」と呼ばれる手法だ。これだけ大きな屋根を一度にリフトアップするのは珍しい。
加えて、「屋根免震」という方法を採っているのも珍しい。屋根免震とは、地震の揺れを軽減する「免震装置」を、通常のように建物の足元に入れるのではなく、柱の最上部、屋根との間に入れる方法だ。この施設では、屋根に伝わる地震の加速度が80%カットされ、建物の骨組みを軽くすることができた。前述のリフトアップも当然、屋根が軽い方がやりやすいので、屋根免震と併せて検討された。それでも屋根の重量は7000トンに上る。

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