東京五輪で、“建築”として、特に注目してほしい競技施設とその見どころ、1964年に開催された前東京五輪との比較などを、写真とイラストを交え、5回にわたって紹介する。
(1)「幻のザハ案」があって実現した高コスパの隈流「国立競技場」
(2)1人の天才よりチーム力、東京五輪「3大アリーナ」の魅力
(3)代々木競技場は世界遺産級、まさに「レガシー」残した1964東京五輪
(4)新旧五輪施設プロセス比較、コロナで緩和された「がっかり感」
(5)無観客でも満席に見える 「未来予知」と話題の国立競技場を疑似体験
五輪は「スポーツの祭典」であると同時に「建築の祭典」でもある──。2013年9月にオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まったときには、そんな書き出しで熱い開幕リポートが書けると信じていた。過去を振り返れば、五輪によって歴史に刻まれた名建築は実に多いからだ。

東京五輪の本番が近づいている。しかし、今回の五輪では選手団も報道陣も行動範囲を厳しく制限され、とても「空間を楽しむ」余裕はなさそうだ。会場施設の「建築としての魅力」が報道を通じて伝えられる可能性は低い。それでも、競技中継では会場が映る。映れば気になる。この連載では、今回の東京五輪で特に注目してほしい競技施設とその見どころ、前東京五輪との比較などを4回にわたって書きたい。
筆者は、文系出身の元建築雑誌記者(記者歴30年)で、現在は「画文家」という肩書きで活動している。この5月には『隈研吾建築図鑑』というイラスト図解本を出版した。なので、この連載もイラスト交じりで進める。
初回は、飛ぶ鳥を落とす勢いの建築家・隈研吾氏(1954年生まれ)が設計の中心になった「国立競技場」(東京都新宿区霞ヶ丘町10-1)だ。開会式・閉会式がここで行われるので、ほぼ全国民が映像で目にすることだろう。

筆者は2019年12月に行われた報道陣向け内覧会でこの施設をじっくり見た。上のイラストが敷地内に入ったときの第一印象だ。「おおっ、木目が見える!」
建物全体が木材のルーバー(細長い材料を隙間を空けて並べたもの)で覆われている。そういうデザインであることは、この案が選ばれたときから知っていた。だが、筆者は、施設の巨大さから考えて、「人間が見て木の板だと分かるのか?」「金属か陶板に見えるのでは?」と心配していた。実際に建物に近づくと、木目が見える。誰が見てもこれは木だ。

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