日本に原潜の独自開発は可能だが

 雑誌日経ビジネス10月25日号の特集で「防衛タブー視のツケ 静かに消えていく企業」との記事が掲載された。現在、防衛に携わる企業が苦境に陥っているとの内容である。ただ、より重要なのは既に消えてしまった組織で、カーボンニュートラルの目標達成の観点からも、早急に復活させるべきものがある。

 それは、大学・研究機関の原子力関連機器研究である。日本でも小型原子炉の導入議論が高まりつつある。自民党の高市早苗政調会長や河野太郎広報本部長は総裁選の際に原潜の導入について触れたが、原子力関連機器の研究をしているのが基本的に企業だけになっているため、技術開発の裾野が狭くなり、政治家らも欧米に実例を見に行く必要が出ている。「技術立国・日本」としては信じ難い現実に直面しているのだ。

 日本の技術をさらに進歩させれば、原潜特有の駆動音を静粛化できるかもしれない。日本の緻密な製造技術をもってすれば、ワイオミング州で建設が始まる米国製の小型原子炉以上に安全性の高いものを造れるかもしれない。だが、既に消えた研究組織の復活をしなければ、カーボンニュートラル実現のための原子力の平和利用も、防衛装備の見直しも、結局は絵に描いた餅になってしまう。

中露は2海峡通過に潜水艦を同行できず

 日本の強みはハードの技術力だけではない。これまで培ってきた、熟練した乗組員や地形などを熟知することを含めた運用のノウハウもある。

 10月23日、中国とロシア軍艦10隻が津軽海峡から太平洋に出て大隅海峡を通って東シナ海に入った。両海峡の公海部分を通過した形で、安保の専門家が「日本の領海に開いた穴」だとして問題視する場所だ。米国の核搭載艦船が非核三原則を持つ日本を通るための抜け穴であり、中国が第一列島線(アリューシャン列島から日本、台湾、フィリピンを結ぶ線)を越えて太平洋に出るための穴でもある。

 中国・ロシアの軍艦数や航路は自衛隊が取得した情報で、そこに潜水艦は含まれていなかった。それが分かるのは、津軽海峡では潜水艦も浮上して航行する必要があるからだ。同海峡は、入り口の両岸距離が19キロと狭く、深度は青函トンネル最深部の真上で140メートル。しかも日本列島特有の凸凹が多数あり、公海部分は太平洋側付近で40度ほど右折する。

 従って、潜水艦が潜航したまま通過するには低速度のジグザグ航行をする必要があるが、それでは公海部分からはみ出て日本の領海を侵犯してしまう。これを避けるために、津軽海峡通過時は潜水艦も浮上しなければならない。

 津軽海峡に公海部分を設けたことを批判する人々は、海峡の全てを領海として通過希望の船舶には「無害通航権」を与えればよいとする。ところが、これでは仮に外国の軍艦が調査活動などを理由に通航を申請してきた場合、日本として「ノー」と答えることは容易ではない。その場合、潜水艦は津軽海峡を潜航したまま堂々と通過することができてしまう。

 日本が津軽と大隅の両海峡に公海を設置したのは、自国の地形などを熟知し、また第2次世界大戦前から潜水艦運用能力を培ってきたことから出た判断によるものである。「見えない行動」をする能力と、されることへの抑止力は表裏一体であり、自分(自国の領土・技術・人材)を知って初めて実現できるもので、両海峡の例はその典型だと言えよう。

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