米中貿易摩擦が本格化した2018年ごろを境として、米国も中国も経済安全保障に注力してきた。また、太平洋に新鋭空母を派遣して環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請し、AUKUS(オーカス、米国、英国、オーストラリアの新たな安全保障の枠組み)を米国やオーストラリアと共に創設した英国も同じ動きだと言えよう。岸田文雄首相も、施政方針演説で経済安全保障推進法(仮称)を来年の国会で成立させると宣言した。しかし、米中は今年3月のアラスカ会談での口論をピークに、むしろ妥協点を探し始めている印象を受ける。そこには何があったのだろうか。また、こうした米中の動きの中で、日本は独自に経済安全保障を推進できるのだろうか。

経済安全保障の確実性を担保するのは国力

 国際社会において一国の外交力を支えるのは軍事力と経済力である。経済安全保障もこの二つの優位性がなければ、交渉において外交力は形骸化させられてしまう。

 日本は1951年9月8日締結のサンフランシスコ講和条約で主権国家として独立を回復した同日に、日米安全保障条約(旧安保、Security Treaty between the United States and Japan)を結んで、基本的に軍事面は米国に依存することとし、経済成長にまい進した。この時以来、米国には日本について「安全保障保護国」という呼び方が存在する。

 筆者は2001年にワシントンで元駐中国大使からこの言葉を聞いて驚いたのを記憶しているが、米国が軍事面で安全保障を提供している国は、湾岸諸国など決して少なくない。

 日本では、昨年の菅義偉前首相の時も岸田首相も、就任の挨拶として米国の大統領に電話会談を申し込み、会談の際には領土問題で中国との争点にある尖閣諸島を日米安全保障条約第五条(日本の施政下にある領土に対する日米共同での防衛)の対象であることを確認している。

 どことなく保護者である米国に対して日本の安全保障を依頼する儀式のような印象を受けるが、それは1960年1月19日締結の新安保(Treaty of Mutual Cooperation and Security between the United States and Japan)でも同様の立場が続いているからだと言える。

 また新安保では、第二条で「国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する」ことを約しているので、日本は経済面でも米国と歩調を合わせるのが基本となっている。安倍政権下でトランプ政権から105機のF-35を購入したのも経済協力を含める新安保を意識したものだったのかもしれない。

 このため、日本が経済安全保障を法制化する場合にも、米国の経済安全保障に歩調を合わせることを前提とすることになるだろう。

 別の見方をすると、日本は近年、自衛隊の増強などに注力しているものの、米国の後ろ盾がなければ軍事面での安全保障のみならず、経済安全保障も完遂することは容易ではない。特に、相手が中国や北朝鮮など核兵器を持つような国の場合はなおさらである。

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