トランプ前大統領は、1月20日にホワイトハウスを去った後、来年の中間選挙に向けて共和党の候補者に対する支持を打ち出してはいたものの、独自に立ち上げたSNSを閉鎖したこともあって、復活の目はないとの見方が有力であった。しかも、ニューヨーク州での脱税容疑に関する捜査が行われている。

 ところが、トランプ前大統領は6月26日、オハイオ州ウェリントンで、4月から準備してきた集会を前評判通りのにぎわいで実現し、90分あまりのエネルギッシュな演説で聴衆を魅了した。共和党の中間選挙に向けた火ぶたは切られたのである。トランプ前大統領は、その後も集会やテレビ出演を徐々に増やしており、RNC(共和党全国委員会)もトランプ氏を頂点とした中間選挙対策の形を整えつつある。

トランプ前大統領は8月21日、アラバマ州で支持者集会を開いた(写真:ロイター/アフロ)
トランプ前大統領は8月21日、アラバマ州で支持者集会を開いた(写真:ロイター/アフロ)

 ただ、共和党の議員の中には、昨年の大統領選挙の結果を巡る様々なやりとりの中で、トランプ前大統領から離れた者も少なくなく、共和党が一枚岩になることは決して容易ではない。例えば、反トランプののろしを上げたチェイニー下院議員はRNCからすれば共和党内での混乱要因だが、本人はそれが正義だと訴え続けている。

 とはいえ、選挙は勝ってなんぼなので、トランプ旋風が再び吹き始めれば、共和党はトランプ前大統領の下に結集していくだろう。一部の報道ではあるが、トランプ氏自身が2024年の大統領選挙を目指すとしているとの話も出始めた。

クオモ前ニューヨーク州知事は寝返るのか

 「8月10日は米国を変える記念日となるのか」

 ニューヨーク市長選挙(本選)に向けた民主党のエリック・アダムス候補陣営の集会(8月14日開催)で、SDGs関連の企業で働く黒人青年からこんな言葉が飛び出した(昨年5月のフロイド氏殺害事件の後、米国ではどの人種による意見かが意味を持ちつつあると感じるため、ここではあえて「黒人青年」と呼ぶが、差別の意図はまったくないことを付記しておく)。

 8月10日はニューヨーク州のクオモ知事が辞任を発表した日である。8月3日に公表された165ページにわたるクオモ氏のセクハラに関する調査リポートは、179人にインタビューをした上で、州政府職員9人を含む11人に対するセクハラの存在を指摘している。これが事実なら同知事はアウトだ。

 加えて、クオモ氏の弾劾調査を続けてきたニューヨーク州議会は、セクハラの他に以下も弾劾要求の理由になるとしている。①新型コロナ対策の初期段階で陽性患者をケアハウスに送り、同ハウスでの死者の急増を招いたこと、②自分の友人らに優先的にワクチン接種を実施したこと、③コロナ禍で繁忙であるにもかかわらず契約額50億ドルといわれる書籍を出版したこと。この弾劾の動きにより、クオモ氏はセクハラ調査リポートの発表から1週間で辞任に追い込まれた。

 今回はトランプ氏の復活と共和党の中間選挙のポイントを考える原稿だが、ニューヨークのクオモ氏の話題から入るのは、クオモ氏と彼を支援する多くのニューヨーク州民の今後の動きがトランプ氏の復活にも大きな影響を与えかねないからである。

 鍵は、バイデン大統領がセクハラ調査が進行中の3月16日に、仮にセクハラが事実ならクオモ氏は辞任すべきかとの記者の質問に「イエス」と答えたこと、そして8月4日に辞任を促すかとの質問された際に「その準備はできている」と答えたことだ。

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