ウクライナ情勢が緊迫している。ウクライナ国境付近の様子については、ロシア側もウクライナ・米国・北大西洋条約機構(NATO)側も紛争地域や演習現場に報道陣を入れて公開している。また、TikTokやYou Tube、Twitterなどに様々な映像がアップされているので、ウクライナを取り巻く情勢は細部まで可視化されていると言える。過去20年のテロとの戦いとは異なり、ウクライナを巡る問題は、恐らく世界中の誰もが自分で生の情報を分析できる世界で初めての紛争だろう。本稿では、米国とロシアの双方、とりわけ米国に、長期化する可能性まで見据えて真剣に戦争をする意思があるのかについて見ていく。

 この問題におけるロシア側の武器は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験まで行う本気モードの軍事力である。一方、米国側の武器は金融取引の停止などの経済制裁で、両者がっぷり四つの状況だ。かつての両超大国は、ニセモノを含む情報の発信などによる陽動作戦を展開しつつ、ウクライナ東部のドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)における親ロシア派とウクライナ政府軍の小規模な戦闘を続けてきたが、2月21日にプーチン大統領が両州の独立を承認し、その安全確保のためロシア軍の駐留準備を指示したことで、新たな展開を迎えようとしている。

 2月10日には、バイデン大統領が米3大ネットワークのNBCテレビの単独インタビューで、「ロシア軍の侵攻があった場合にウクライナ国内の米国民を助けるべく米軍を派遣するか」との質問に対して、「ノー、なぜなら(米軍をウクライナに派遣することは)世界大戦を意味するから」と語った。なお、ウクライナ情勢に関する部分は、ビデオ開始後4分半ほどから3分間程度なので、ぜひ一度ご覧いただきたい。

米国はロシアによるウクライナ侵攻を防ぐことができるのか(写真:AP/アフロ)
米国はロシアによるウクライナ侵攻を防ぐことができるのか(写真:AP/アフロ)

米国民はウクライナ問題よりインフレや新型コロナに関心

 目立った成果がなかった2月12日の米ロ首脳電話会談の後に行われた米国の世論調査のうち、外交など政策別の調査を含む3件を見てみると、いずれの調査でも、米国民はバイデン政権に対して、ウクライナ問題ではなく経済対策(インフレ対策)や新型コロナウイルス対応の優先を求めていることが分かる。また、プーチン大統領には強い脅威を感じながらも、ウクライナ情勢は米国にとってはさほど重要と考えておらず、解決策としてはウクライナがNATOに加盟をしないことを約束することでロシアとの融和を図ろうとするフランスやドイツの動きを評価している印象だ。

 具体的に見ていこう。まず2月12~13日に行われたモーニング・コンサルトとポリティコの世論調査では、バイデン大統領のやり方を「評価しない」(43%)が「評価する」(40%)をやや上回り、ブリンケン国務長官のやり方に対しては43%が「分からない」または無回答だった。他方、欧州の同盟国については、「評価する」(43%)が「評価せず」(22%)の2倍近くとなり、「分からない」または無回答の35%も上回った。

 2月12~15日のエコノミストとYouGovの調査では、バイデン大統領の外交政策を「評価しない」が51%の過半となった。「ロシアに脅威を感じる」との回答は81%と中国に並んだものの、ウクライナが米国の外交に影響を与えるかとの質問には、「強く与える」37%、「少しは与える」37%、「全く与えない」27%となり、全体として米国民の関心が非常に高いとは言えない結果だった。

 2月14~15日のロイターとIpsosの調査では、米国が直面している最も重要な課題は何かとの質問で、「戦争や外交的問題」を選んだ人はわずか3%しかいなかった。また、バイデン大統領が今後優先すべき政策は何かという質問については、「経済」(43%)、「新型コロナ」(26%)を選ぶ人が多かったのに対して、政争や外交的問題は「その他」の8%に含まれる程度だった。

 その前週に行われたCBSの世論調査でも、バイデン政権のウクライナ外交について「評価しない」が60%、「ウクライナ問題から距離を置くべきだ」が53%だったので、米国民の気持ちは東欧における緊張度の上昇には影響されていないようだ。

 バイデン大統領は、インフレ懸念の高まりなどもあり、今年秋の中間選挙に向けて厳しい情勢に置かれている。同氏の「米軍をウクライナに派遣しない」との発言は、上記のような世論調査の結果を受けて、危険は冒せないと考えているのかもしれない。バイデン政権は、銀行間の国際的な決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを排除する案は現時点では対象外との方針を示した。

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