人々の人生を脅かし続ける新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)。私はこの新型コロナを人類が経験する最後のパンデミックにするための提言を行う、コロナ対応検証の独立パネルに約半年の間参画した。独立パネルの提言は5月12日に公開され、その実現に向けて各国政府との議論が始まっている。この連載では5回にわたり、独立パネルでの経験や学び、提言の内容を、日本についての学びや、日本人として国際システムの改革に関わることへの思いも含めて共有したい。記事は個人としての見解であり、現在所属するビル&メリンダ・ゲイツ財団とは関係ないことを申し上げておきたい。
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世界の政策形成の場にいない日本人
国際的な開発案件やヘルスケアの仕事をしていると、常に考えさせられる問題がある。日本人が世界の政策や国際システムをつくる場をリードしている姿を、ほとんど見ないことだ。
私が事務局に参加した独立パネルのメンバーは、国のバランス、貢献できる専門性やバックグラウンドのバランス、ジェンダーバランスなどを考慮して選ばれていた。バックグラウンドとしては、元大統領から財務大臣、保健医療の専門家、国際機関の長、NGOや青年グループのリーダーまで幅広い。
しかし、私が参加する前、ここに日本人はいなかった。日本が政治的に軽視されたということではない。将来のパンデミックを防ぐための提案をつくる議論に貢献できる人物が日本にいなかったということだろう。
独立パネルの議論の中で特に素晴らしい貢献をしていたパネルメンバーの出身国を見ると、米国、英国、フランス、カナダなどが並ぶ。エレン・ジョンソン・サーリーフ共同議長と他の2人のアフリカ出身のパネルメンバー(両者とも女性)も、特にアフリカおよび途上国の視点を提言に反映させる点で、重要な役割を果たしていた。
一方で、コロナ対策の成功事例が圧倒的に多い東アジアや東南アジアからは、コロナ発生当初の中国での状況を詳細にレビューする観点から、中国の疫学の第一人者が参加しただけだった。事務局ではアジア出身者は私だけだったため、アジアの成功事例の分析など、アジアの視点を組み込む役割は、私が果たすことになった。
選ばれたメンバーは、事務局メンバーも含めて、独立した立場で働く。そのため現役の大統領や大臣、国際機関の長は選ばれなかった。それでも当然、パネルメンバーは皆、自分たちの国のグローバルヘルス分野の政策形成に強い影響力を持っている。提言を受けて各国が自らの方針を固めて国際的な政策交渉、意思決定のプロセスをリードする際に、大きな役割を果たしているだろう。
また、直接的ではないにせよ、パネルの提言作成に際して、それぞれの国の視点を持ち込み反映させることにもなる。つまり、こうした国際的な政策形成のプロセスに日本人が入ることは、日本にとっても重要なことなのだ。日本政府で世界の保健医療の問題に取り組む友人が、私に事務局への参加を強く呼びかけた理由もそこにあった。
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