備えと緊急対応のための新しい資金を確保する
高所得国から中低所得国まで全世界が、将来の感染症への備えを十分にすることが、世界的な拡大を防ぐには不可欠となる。
パンデミックへの備えに対する投資が不十分だった問題は、日本のような高所得国では国内政府予算の十分な割り振りの問題で済む。これに対して中低所得国においては、資金不足の中で十分な資金を確保することは難しい。
こうした資金ギャップを解消し、緊急対応時に途上国に援助資金を迅速に届ける必要がある。独立パネルは、新しい資金調達の仕組みを設立し、先進国が年間50億~100億ドルを拠出することを提言した。
改革のチャンスは、コロナの脅威が続く今しかない
最も重要なのは、これらの改革を包括的に実施することだ。各国の備え、感染症の検知からアラート、そのアラートへの各国の対応までのプロセス、そして感染者や死者を抑えるワクチンや治療薬の研究開発から接種・適用までのシステムなど、すべてをつなぎ合わせて準備しておいて初めて、感染力の高い病原体への対応が可能になる。
21年5月12日に発表した独立パネルの提言は、世界のメディアをはじめ、各国および専門家たちの間で、大きな話題となった。大胆で、具体的で、すぐに行動できるところまで磨き込んだ内容は、「これまでの提言と違う」(ジム・ヨン・キム元世界銀行総裁)と評価され、世界保健総会、G7会合でも、提言を支持する声が相次いだ。
しかし現時点で各国の間で提言に対する具体的な意思決定はなされていない。改革は各国政府への負担を強いることになり、各国の主権に関わるものになる。実現には、世界各国の強い意志とリーダーシップが不可欠だ。
独立パネルの提言は、今年9月の国連総会、同10月のG20サミットと、今年の後半にかけてさらに首相レベルの議論と交渉が進むことになる。コロナの脅威が続き、世界各国の注目が集まる今しか、大きな改革を実現するチャンスはない。
独立パネルの共同議長を務めたエレン(・ジョンソン・サーリーフ)の世界各国政府への言葉が、私の個人的な思いも代弁してくれている。最後に紹介したい。
「私たちはあなたたち多くの国々が、今後さらに起こり得るパンデミックを防ぐには『これまで通りは選択肢にない』と雄弁に語るのを聞いた。それは我々独立パネルの抜本的な改革が緊急に必要だという意見と一致している。この先必要なのは、改革提言に対する具体的なアクションだ。各国政府の皆さん、あなたたちは今とても重要な意思決定をするチャンスを迎えている。私たちは、防ぐことができたはずの世界的な危機のさなかにいる。私たち全員が、この機会をとらえ、必要な政治的な意思決定を下さなければならない」
リベリアの元大統領であるエレンは独立パネルで、特に途上国の声を代弁し、不平等の問題の追及に大きな役割を果たしてきた。
最終回となる次回は、今回の独立パネルのような、世界規模の重要な政策決定の場に日本人が参加することの意義や、そのために必要なことなどを、自分の経験も踏まえながら共有したい。
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この記事はシリーズ「新型コロナを人類最後のパンデミックにする挑戦」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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