感染拡大よりも先に緊急事態アラートを

 この課題と提言は第2回で詳しく述べた。コロナのような呼吸器系の感染症に対するアラートの発出基準を見直し、感染症の拡大のスピードよりも早く緊急対応システムを稼働させるために、すべてのプロセスを刷新しなければならない。

 デジタル技術による世界の感染症検知システムのネットワーク化と、動物の感染状況の検知、ゲノム解析などに大胆に投資して、感染症の発生を今よりはるかに速く検知することを目指す。

 そして検知した感染症を素早く調査し、アラートを鳴らすには、WHOが国際原子力機関(IAEA)のようになる必要がある。発生国の許可を得ず、ただちに調査ミッションのチームを派遣でき、得た情報をリアルタイムで公開できるよう、権限を拡大するのだ。

研究開発から接種までのプラットフォームの確立

各国の新型コロナワクチン接種状況(出所:Our World in Data)
各国の新型コロナワクチン接種状況(出所:Our World in Data)
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 21年6月21日時点で、イスラエルは国民の60%、英国や米国では約45%が2回目のワクチン接種を完了している。リスクが相対的に低い若年層までワクチン接種が拡大している。日本は大幅に遅れているが、19%弱が1回目のワクチンを接種し、国民全員をカバーするだけのワクチンは確保している。

 一方で、アフリカ54カ国の2回目のワクチンの接種率は平均で1%弱にすぎない。危機に際して高所得国がワクチンを買い占めた結果であり、自国優先主義の下での大きな不平等を示している。途上国でコロナが収まらないことで、感染力が高くワクチンの効果が弱い新たな変異種を生み出すリスクもある。それが先進国に流入し、世界全体を脅かすことになる。

 この問題に対処するため、先進国の資金をプールし、途上国向けのワクチンを一括購入するCOVAXという国際的な仕組みがつくられた。今になってようやく、途上国の人々へのワクチン接種を加速させるメドがつき始めている。

 将来の感染症においては、現在世界が経験している不平等を繰り返してはならない。こうした仕組みに感染症の発生前から十分な資金をプールしておき、研究開発や製造の段階から投資し、製薬企業と交渉。途上国向けのワクチンや治療薬を最初から大量に確保しておく必要がある。

 また長期的には、ワクチンや治療薬が先進国やインドなど非常に限られた地域でのみ製造される状況を変えなければならない。途上国を含む世界の各地域でワクチンや治療薬の製造と分配が可能になる地域ネットワークをつくる必要がある。

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