世界の安全保障上の最重要課題に引き上げる
第2回で紹介したように、新型コロナをパンデミックにしてしまった「失敗の連鎖」の裏には、パンデミックの脅威が、世界の安全保障上の最重要課題とされてこなかったことがある。世界保健機関(WHO)や保健大臣(日本でいう厚生労働大臣)のレベルで扱われたのだ。
そのためほとんどの国でパンデミックへの備えに十分な投資が行われなかった。主権国家に対する緊急時のWHOの権限も限られており、経済への影響に対する懸念から、WHOによる国際的な緊急事態のアラート(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)発出のハードルも高かった。そして発出されたアラートに対する各国の対応も非常に遅かった。
この状況を大きく変えるためには、国を超えた強力な機能が必要になる。
パンデミック対策の具体的な目標を定め、防ぐための各国の義務を明確にし、独立パネルが提案する改革の実現を主導し、各国や国際機関の準備状況をモニタリングし、改善に向けた責任の所在を明確にする必要がある。そのための組織として、「グローバルヘルスの脅威に対する協議会(Global Health Threats Council)」を設立することを提言した。すべての国連加盟国が集まる国連総会の下に、国家元首レベルが共同議長を務め、各国とのハイレベルの政治プロセスを推し進めることができるようになる。
WHOの選択と集中、独立性と権限の強化
第2回の記事で触れた通り、新型コロナを検知してから、WHOが緊急事態アラートを世界に発出するまでのプロセスに遅れが生じた。この背景にはWHOが運営資金を各国に依存する構造があり、中国との関係性が影響している。
この構造を抜本的に変える必要がある。WHOが資金を各国の自発的な拠出に依存する形を廃止して、各国からの自動的な定率のフィーの支払いで運営するのだ。各国からの資金面での独立性が高まる。また、加盟国の投票による事務局長再選の仕組みは廃止すべきである。事務局長が各国に対して強い立場をとることを妨げるからだ。
WHOはパンデミック対応を含む国際保健分野の規範設定や、各国への技術的なアドバイスをその中心的な役割としている。しかしながら、その資金を各国からの拠出に依存している。その影響で、大きな資金の集まりやすい感染対策用品の調達など、他機関に対する比較優位がない分野にまで活動の範囲を広げていた。
一方で初期にはマスクの使用に関する不適切なガイダンスなど、そのコアビジネスと言える分野での不備が目立った。これらを避けるため、WHOの役割を規範設定や技術的なアドバイスとし、人的資源などを大胆に集中させる必要がある。
すべての国が今から備える
前回の記事で、ほとんどの国がパンデミックへの備えを十分にしておらず、パンデミックに対する戦略や姿勢の違いが大きな結果の違いを生んだことを指摘した。この反省を受け、独立パネルはすべての国が、半年以内にパンデミックへの備えを強化する計画をつくり直すことを提言した。それに基づいて、仕組みを整えたり、必要なリソースを調達したりする。
具体的には、すべての国で首相直属のパンデミックコーディネーターを任命。省庁や中央─地方政府の枠組みを超えた政府全体の感染症への備えと対応を調整する。
そのうえで感染症対策を担う公衆衛生の専門機関を設立し、その多角的な機能を強化することも提案した。パンデミック対応のための政府全体によるシミュレーション活動を毎年行い、実際に対応システムを動かす中でその改善を進めていく。
また、各国のパンデミックへの備えに対する責任を、保健大臣から首相と財務大臣のレベルに引き上げることも提案した。国際通貨基金(IMF)による世界各国の経済状況や為替のリスク、経済政策に関する監視と政府との協議に、パンデミックに対する準備状況の評価を加える。これによって、各国政府によるパンデミック対策への投資を促す。
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