人々の人生を脅かし続ける新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)。私はこの新型コロナを人類が経験する最後のパンデミックにするための提言を行う、コロナ対応検証の独立パネルに約半年の間参画した。独立パネルの提言は5月12日に公開され、その実現に向けて各国政府との議論が始まっている。この連載では5回にわたり、独立パネルでの経験や学び、提言の内容を、日本についての学びや、日本人として国際システムの改革に関わることへの思いも含めて共有したい。記事は個人としての見解であり、現在所属するビル&メリンダ・ゲイツ財団とは関係ないことを申し上げておきたい。
第1回を読む
第2回を読む
第3回を読む
2021年2月9~10日、独立パネルの4回目の全体ミーティングが開かれた。ビデオ会議では、いつものように事務局およびパネルメンバーが映り、議論が進んでいく。各メンバーの頑張りで、分析作業は順調に進んでいた。と同時に、全員が焦り始めていた。
というのも、パネルの最終提言を世界の国々で議論する世界保健総会(World Health Assembly)に向け、残された時間がなかったからだ。総会の開催は5月25日。各国に事前に内容を理解してもらうには、4月末には提言内容をまとめて伝えなければならない。
逆算すると2カ月半だ。独立パネルのメンバーは分析に労力を割いてきたが、「事実と深い洞察に基づいた提言のための必要な分析はそろった」と結論付け、提言の作成に注力することを決めた。
一方、分析とある程度同時並行で進める予定だった、国際システムの改革を考える作業はうまく進んでいなかった。複雑に絡み合う課題をどのように整理するかという入り口の部分で、議論が平行線をたどっていたのだ。そして4回目のパネルミーティング後、事務局長のアンダース(・ノードストローム氏)からビデオ通話が入った。
「チーム内の役割分担を変えたいんだ。国際システムの課題の整理と、パネル提言の取りまとめをリードしてくれないか」
アンダースはこう切り出して、私に提言の取りまとめをするようにオファーしてきたのだ。
私はワクチン、治療薬、検査キットの開発、感染対策用品などへの公正なアクセスについて、分析と提言作成のリード役を務めてきた。また、新型コロナウイルス感染症の基礎的な保健医療サービスへのインパクトの分析も高く評価してもらった。こうしたことからパネルメンバーの信頼を得ていたこと、また経営コンサルティング会社やビル&メリンダ・ゲイツ財団における戦略策定の仕事で培ってきた、複雑な問題を構造化して整理する力が評価されていたことなどが、抜擢の理由だった。
相当プレッシャーのかかる難しい仕事になると容易に想像がついたが、将来の国際システムのあり方をデザインできるチャンスに奮い立ち、二つ返事で引き受けた。
それから2カ月にわたる怒涛(どとう)の日々が始まった。事務局長のアンダースはスイスのジュネーブに、私は米西海岸のシアトルにいる。9時間の時差があるので、互いに作業や課題を引き継いで、24時間体制で進めることができた。
「大胆で具体的で、すぐに行動できる。これをやればパンデミックを二度と起こさずに済む」
この条件を満たす提言を作るため、パネルメンバーとともに、数えきれないほどの改定作業を繰り返した。一切の妥協はなかった。そうして生まれた提言は、実現できればパンデミックを防げると信じられるものになった。以下、提言の主要な部分を説明したい。
Powered by リゾーム?