感染症のパンデミック化を繰り返さないために
独立パネルは、以上のような事務局の分析を受けて、「新型コロナのパンデミック化は防げた」と結論付けた。今回の新型コロナを人類が経験する最後のパンデミックにするために重要なのは、コロナを含む呼吸器系の病原体の感染スピードよりも速く対応できるシステムを作ることだ。
独立パネルは、新しい病原体を素早く検知する体制を抜本的に強化することに加えて、WHOに国の許可を待たずに新しい病原体の情報をリアルタイムで公開し、ただちに調査ミッションを送り込める権限を持たせることを提案した。これは国の主権との関係で「不可能だ」と言う声も聞くが、IAEA(国際原子力機関)は、核施設に対するこのような査察の権限を有している。パネルメンバーの言葉を借りれば、「国際社会は、パンデミックの脅威が原子力の脅威と同じレベルの最大級のものだと認識すべきだ」ということだ。
WHOによるアラート発出などの遅れには、国に対するWHOの独立性の問題も大きく関係している。WHOは資金源をメンバー国に依存しているが、その大部分が、各国が自発的に拠出する資金である。その各国の自発的な資金貢献に依存している状況では、WHOがその国々から独立した立場で判断を下すことは難しい。
また、WHOの事務局長は、メンバー国の選挙で選ばれるが、再選のチャンスがあり、そのことがWHOの各国に対する姿勢に大きな影響を与えることは想像に難くない。独立パネルはその構造的な課題にも踏み込み、WHOへの自発的な拠出をメンバー国による定期的なフィーの支払いに切り替えることで資金面での独立性を高め、事務局長の再選の仕組みを廃止することを提案した。
さらに重要なのは、WHOによる情報提供と緊急事態アラートに対する、世界各国の対応である。各国は今後さらに発生することが予想されるコロナ級あるいはそれ以上の感染力を持つ病原体に対して、どのような備えをすべきか。次回は、事務局が実施し私も参加した、28カ国のコロナ対応の成功・失敗体験の分析から見える、国の備えのあり方について共有したい。
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