人々の人生を脅かし続ける新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)。私はこの新型コロナを人類が経験する最後のパンデミックにするための提言を行う、コロナ対応検証の独立パネルに約半年の間参画した。独立パネルの提言は5月12日に公開され(https://theindependentpanel.org/mainreport/)、その実現に向けて各国政府との議論が始まっている。この連載では5回にわたり、独立パネルでの経験や学び、提言の内容を、日本についての学びや、日本人として国際システムの改革に関わることへの思いも含めて共有したい。記事は個人としての見解であり、現在所属するビル&メリンダ・ゲイツ財団とは関係ないことを申し上げておきたい。
第1回から読む
独立パネルの事務局に参加して私が最初に携わった仕事の1つは、新型コロナウイルスのパンデミックがどのようにして起きてしまったのかを理解するために、時系列を詳細に整理することだった。感染者が最初に中国で確認された2019年12月の終わりから、感染が世界中に拡大し、世界保健機関(WHO)によって「パンデミック」と認定されるまでの2020年3月末までの間に、誰がいつどのように対応したのか。また、報告されている感染者数だけからは分からない、実際のコロナウイルスの感染拡大のスピードは、どれほどのものだったのか。
事務局チームやパネルメンバーとともに、WHOの内部文書や最新のリサーチ結果を含む入手可能な文書に加え、中国やその他の国、WHOなどへのインタビュー、各国から提出されたそれぞれの国々の時系列データなどを整理、分析した。その結果見えてきたのは、失敗の連鎖による、感染スピードに全く追いつかない対応の遅れだった。

感染の検知
2019年の12月24日に、肺炎の患者が通常の治療に反応しないことを心配した中国の医師たちが、サンプルを民間の検査機関に提出した。のちの検査で、12月16日から1月2日までに病院に運び込まれた患者のうち、41人の新型コロナウイルスへの感染が確認された。それらの患者の最初の発症時期は、12月1日ごろと推定されている。12月の終わりの時点で人から人への感染が起きていることは確定できていなかったが、そのサインは明確にあった。
その後12月30日に武漢市の保健当局が、起源不明の肺炎が起きていることを伝える緊急の連絡を市内の病院ネットワークに発出した。その連絡を翌31日に現地紙が取り上げ、それが台湾の疾病予防管理センターや新規感染症のモニタリングシステムなどに確認され、WHO本部に連絡が届いた。
この一連のプロセスは、医師たちの適切な行動とオープンソースのサーベイランス(病原体の監視)の仕組みが機能したことを示している。一方で、12月1日以前を含め、どこでいつから感染があったのか、それをいつ検知することが可能だったのかについては、いまだに分かっていない。新型コロナの起源については、ほとんどの科学者たちが動物から人への感染とみているものの、「武漢研究所起源説」などを否定する証拠も見つかっておらず、起源が明らかになるとしても、長い時間がかかるとみられている。
確実に言えるのは、デジタル技術で世界各国と各地域の疾病予防管理センターおよびWHOをつなぐサーベイランスの仕組みと、このような感染症の起源となる動物の感染状況の検知、動物から人への感染リスクを高める環境の変化の分析、今回のコロナ対応で大きく進展しているゲノム解析のサーベイランスへの活用など、リスクの高い病気を事前に検知できる仕組みを抜本的に強化すべきことだろう。どの時点で新しい病原体を検知できるかは、特に感染力の強い病気においては決定的に重要になる。
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