人々の人生を脅かし続ける新型コロナウイルスのパンデミック。私はこの新型コロナを人類が経験する最後のパンデミックにするための提言を行う、コロナ対応検証の独立パネルに約半年の間参画した。独立パネルの提言は5月12日に公開され(https://theindependentpanel.org/mainreport/)、その実現に向けて各国政府との議論が始まっている。この連載では5回にわたり、独立パネルでの経験や学び、提言の内容を、日本についての学びや、日本人として国際システムの改革に関わることへの思いも含めて共有したい。記事は個人としての見解であり、現在所属するビル&メリンダ・ゲイツ財団とは関係ないことを申し上げておきたい。

2020-21年コロナ対応検証独立パネル事務局メンバー
ビル&メリンダ・ゲイツ財団 シニアアドバイザー。東京大学卒業後、JICA(独立行政法人国際協力機構)入構。2007年にハーバード大学ケネディスクール公共政策修士号取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本オフィス、南アフリカオフィスなどを経て、ジョンズ・ホプキンス大学にて公衆衛生修士号、世界銀行在職中に同博士号を取得。世界銀行で2014-16年に西アフリカで大流行したエボラ出血熱の緊急対策など、サブサハラアフリカ地域の保健医療システム改善のチームリーダーを務める。2018年9月よりビル&メリンダ・ゲイツ財団で戦略担当副ディレクター、シニアアドバイザーとして勤務。2020年10月から2021年4月末まで、ゲイツ財団を休職し、世界のコロナ対策を評価し今後のパンデミック対策に向けた国際システムの改革を提案する独立パネル(https://theindependentpanel.org/)に事務局の中心メンバーとして参画。
友人からの突然の誘い
独立パネル参加のきっかけは、友人からの電話だった。
彼は大学院への留学時代からの仲の良い友人で、世界の保健医療の問題に取り組む若き日本のリーダーだ。メッセンジャーで「ちょっと話せない?」と言われ、電話で話をすると、「世界のコロナ対応を評価する独立パネルが立ち上がったのだが、その事務局にぜひ日本人に入ってほしい。ぴったりだと思うけど応募してみないか」と言われた。
独立パネルは世界各国の要請を受けて、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、ヘレン・クラーク元ニュージーランド首相と、ノーベル平和賞受賞者でもあるエレン・ジョンソン・サーリーフ元リベリア大統領に共同議長を依頼した組織だ。世界のコロナ対応を客観的に評価し、この世界に壊滅的な打撃を与え続けているパンデミックを二度と起こさないための国際システムの改革を提案することが目的だ。
彼女らが仲間となる11人のパネルメンバーを選定し、そのパネルを支えて実際の分析や提言の取りまとめを担う事務局が立ち上がったところだった。選定されたメンバーは、元大統領や財務大臣、国際機関の長、国境なき医師団など市民団体の長、主要国の保健医療セクターの責任者など、そうそうたるものだった。
この話を聞いた時の私の最初の反応は、「まぁ多分無理だろう」だった。
私はビル&メリンダ・ゲイツ財団という、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツが創設した、世界の保健医療の問題解決に取り組む組織で働いていた。コロナ禍にあって、財団の活動の中心もコロナ対策にフォーカスしていた。私もアフリカの国々がコロナ対策に十分に取り組めるよう、大統領直轄のタスクフォースや緊急オペレーションセンターを立ち上げ、機能させるための支援を取りまとめていた。
また、コロナで大きく阻害されていた途上国の基礎的な母子保健サービスを回復させるための活動にも従事していた。自分が半年間チームを抜けるのは、現実的ではないと思った。何よりも、小さな子どもが3人いる。今住んでいるいる米シアトルから、事務局が置かれるスイスのジュネーブに突然引っ越すのは不可能だ。
もう1つ引っかかったのは、「パネルの提言が、本当に実現するのか」ということだった。2009年のH1N1インフルエンザの大流行以降、少なくとも11のハイレベルのパネルや委員会が設置され、パンデミック対策の強化を具体的に提案する16ものリポートが出されていた。しかし、そのいずれの機会にも、大きな改革が実現することはなかった。声をかけてもらったのは光栄だが、丁重に断ろう。そう思っていた。
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