新型コロナウイルスの感染者数が再び増加に転じ、東京五輪・パラリンピックは多くの競技が無観客で開催されることになった。関係者以外が会場に足を運べないなかで、注目が高まるのが映像配信などのリモート観戦だ。しかし、通信分野での五輪ゴールドパートナーであるNTTはそのニーズを捉えられそうにない。

 「商用の5Gサービスを使い、距離、時間、空間といったあらゆる壁を越えるスポーツの新たな観戦体験を具現化する」。7月1日に東京2020組織委員会とNTT、NTTドコモ、米インテルが開いた「TOKYO 2020 5G PROJECT」の会見で、組織委員会のCTIO(チーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサー)、三木泰雄氏はこう力説していた。

 新型コロナの感染再拡大により、1都3県で開催される競技がすべて無観客となることが決まった東京五輪。自宅などからリモートで観戦するニースは大きい。冒頭の発言は、それに対応する新技術のお披露目かと期待させたが、実際は違った。

会場内に限られる新たな体験

 発表された新技術は3つ。1つ目はセーリング競技で、観客席から遠く肉眼で見ることが難しい競技風景を、NTTが開発した超高臨場感通信技術「Kirari!(キラリ)」を使い、リアルタイムで洋上のディスプレーに映し出す。2つ目は水泳競技で、観客がAR(拡張現実)デバイスを装着すると、目の前で行われている競技に重なるように、選手紹介やタイムなどの競技データを映し出す。3つ目はゴルフ競技で、離れた場所で行われている複数の競技風景を、手元のデバイスで選択して視聴できるマルチアングル配信を実施する。

 開発を担当したNTT人間情報研究所の木下真吾研究部長は「ニューノーマル時代の観戦スタイル」と話す。しかしその“新たな観戦体験”を享受できるのは、実際に会場まで足を運んだ人だけ。7月1日の発表時点では観客が想定されていたが、無観客開催が決まったことで、関係者しか体験できなくなった。

セーリングで使われる技術「キラリ」は5Gを使って伝送した4つの4K映像をリアルタイムで合成し、横長の12K映像にする
セーリングで使われる技術「キラリ」は5Gを使って伝送した4つの4K映像をリアルタイムで合成し、横長の12K映像にする

 理由は2つある。1つ目は、五輪会場を日本の優れた技術のショーケースとすべく、リアルな観戦体験の価値向上に力を注いできたこと。

 例えばセーリング競技で用いられるキラリの設備は競技会場に設置されている。視野いっぱいに広がる縦5m、横50mの大型ディスプレーに4つの4Kカメラ映像を合成した12K映像を映し出す。「臨場感を出すために、観客席との一体感を重視している」(開発スタッフ)といい、VR(仮想現実)ゴーグルなどへの配信は念頭にないという。

 水泳競技で用いられるAR技術は、リアルの観戦とバーチャルな映像を組み合わせるもの。リアルな観戦にデジタル技術で新たな魅力を付加しようという試みだ。

 2つ目は、五輪の映像の配信権をNHKと民放テレビ局が握っていることだ。これは地上波やBSだけの話ではない。ネット配信でも、NHKの特設サイトや民放の「gorin.jp」「TVer」が独占している。

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この記事はシリーズ「逆風下の東京五輪」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。