一部の中小企業が大企業に勝るのは、技術力やアイデア力だけではない。中には、働き方改革など生産性の向上で大企業に先行する会社もある。この逆転現象の背景にも「簡単にルールを変えられない」という大企業の特性がある。

 「1日の労働時間は7.5時間以内を目安に作業(最大7.75時間)」「週の労働時間は40時間以内を厳守」「1カ月の労働時間は160時間以内を目安に作業」――。その会社の社内ボードには、そんな働き方に関する様々な約束事が細かく書かれている。いずれも単なるスローガンではなく、現実に社員の働き方は極めて効率的で先進的だ。

 最大の特徴は自由出勤制度。オフィスの開いている午前8時から午後6時の間であれば、土日祝日を含めていつでも自分の好きな時間帯に出勤できる。職場での滞在時間も自由。取材当日出勤していた女性社員は「今日は家の用事で午後1時に出社した。午後4時までには帰る予定」と話す。

 いつ、どれだけ仕事をするのかは個人の裁量に委ねられ、働いた時間に応じて給料が支払われる。自由な労働環境の下、多くの社員が家事・育児と仕事の両立を図り、中には副業に挑戦している人もいる。

 それでいて賃金水準は周辺の企業の相場よりも高く、2021年7月以降はさらに引き上げる予定だ。最初から残業代を当てにしなくていい給与制度のため、社員は無駄な残業をする必要もなく、さらなる効率化にまい進。その結果、生産性がますます上がり、会社の利益や給与の原資も増えるという好循環が生まれている。

30年近く前から「自由出勤制度」

 ここまで読んで、多くの人は「大手IT企業におけるコロナ禍以降の働き方」の話とでも思うに違いない。だがその見立てには2つの誤解がある。

エス・アイのオフィスには「1日の労働時間は7.5時間以内を目安に作業(最大7.75時間)」などの項目が細かく書きだされている

 この会社は兵庫県姫路市にある年商約1億5000万円、従業員約60人の中小企業、エス・アイ。JR姫路駅から北西に9kmほど離れた田園地帯にある。同社で独自の働き方改革が始まったのはコロナ禍どころか、今から30年近く前、1990年代前半まで遡る。

 データ入力やウェブサイト制作が本業で、創業は91年。データ入力会社に長年勤務していた今本茂男会長が独立し設立した。バブルの余韻も残り「モーレツ社員」も珍しくなかった時代だが、社員が30人ほどに成長した93年ごろには繁忙期以外の自由出勤制度を導入していたという。

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