ツインバードはその意を受け、この「世の中にない冷凍技術」の灯をとことん守り続けた。

 2002年には量産化の技術を確立したものの、まだ市場はほとんどない。折しもこの頃から円安によって製造コストが上昇するとともに、販売競争も激化。本業の家電分野が苦戦する中、06年まで5期連続の赤字を計上した。

 多大な投資をしながら結果が出ないFPSC事業には社内からも反対の声が上がったが、それでも研究を続行。この時期、既に同社は東証2部への上場も果たしていたが、「株主至上主義」や「短期利益主義」を佐々木氏の教えより優先させることはなかった。

 今回のワクチン運搬用としての大型受注に伴い、約4億円をかけてディープフリーザーの製造ラインを増設などをした同社。21年2月期はコロナ禍で家電量販店の休業が相次ぎ本業の家電部門は低迷したものの、売上高は前期比3%増の125億円、経常利益は同627%増の4億8400万円を記録した。まさにFPSC効果と言える。

ディープフリーザーの貢献で21年2月期は増収増益に。製造ラインを増設した
ディープフリーザーの貢献で21年2月期は増収増益に。製造ラインを増設した

 コロナ禍という緊急事態がなければ、ここまで日の目を見ることはなかったかもしれないFPSC。それでも、次のことは言えるに違いない。「株主至上主義」や「短期的利益」を必ずしも最優先としない中小企業の中には、大企業にはない思わぬ独自技術を育んでいる会社が存在する――ということだ。

 実際、世界最高水準の研磨加工技術を持つ宮城県利府町のティ・ディ・シーや、脳神経外科用ハサミで国内シェア9割を誇る東京都台東区の高山医療機械製作所、石油プラントの配管などで用いられる球状のステンレス製弁で国内トップシェアを持つ大阪府東大阪市の木田バルブ・ボールなど、大企業と遜色ない技術力を持つ中小企業を探すのは難しくない。

過熱する中小企業改革論

 人口減少に伴う市場縮小、後継者不足、長引くコロナ禍……。全国の中小企業がいよいよ追い詰められている。「小さな会社は生産性が低いから、日本経済のため大胆に整理したほうがいい」――。そんな中小企業不要論も現実味を帯び始め、政府が早期の最低賃金引き上げを示唆するなど、「改革についていけない企業」を淘汰するかのような動きも広がってきた。

 統合・再編派の中心にいるのは、菅義偉首相のブレーンで元金融アナリストのデービッド・アトキンソン氏。一方、性急な改革への反対派のリーダーは日本商工会議所(日商)の三村明夫会頭だ。「日本経済再生のためには賃上げに耐えられる強い中小企業の創造が欠かせない」とするアトキンソン氏と、「小規模企業の減少は地方の衰退を加速させる」と反論する三村氏。昨年以降、政府の「成長戦略会議」などを舞台にヒートアップした両者の主張は依然、かみ合う気配を見せない。

 この中小企業改革論争、本当に「中小企業が、生産性から収益力まであらゆる面で大企業に劣る」のであれば、軍配は統合・再編派に上がる。“小さくて弱いだけ”の会社は淘汰されたほうが日本全体のためになると確かに言わざるを得ないからだ。

 だが、中小企業の中に、ツインバードのような大企業より先進的な中小企業がいまだ少なからずあるのだとすれば話は変わってくる。

この記事はシリーズ「中小企業をなめるな!「大きい=強い」理論の落とし穴」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。