「まあちゃん、ご飯できたよ」

 兵庫県西宮市のマンションで、同市の倉庫業、西宮冷蔵の水谷洋一社長が、次女の真麻さんに声を掛けた。

 ベッドに横たわっている真麻さんからの反応はない。水谷さんは、慣れた手つきでベッドの背もたれを起こしてテーブル台を備え付け、真麻さんの目の前に鍋の具材とご飯が入った茶わんをそれぞれ置く。真麻さんは、ややもたつきながらも、白菜や白米をスプーンに乗せてそれを口に運ぶ。時折、「ちゃうやろ・・・・・・」「そうそう・・・・・・」「じゃないねん・・・・・・」などの小言をつぶやくが、内容に脈絡がない。

 水谷さんは嘆息する。「見ての通り、娘との会話ができない状態ですわ。娘は17歳のときに自宅マンション14階から飛び降り自殺を図りました。奇跡的に一命は取り留めましたが、下半身が動かなくなり、今は精神病の症状が出ています。告発したことに後悔は一切ないですが、父親として当時もう少し娘の心のケアをすべきでした」。そして覚悟を決めたような表情で、こう小さくつぶやいた。「娘の面倒は一生私が見る。真麻、死ぬときは一緒や」

真麻さんは、下半身が動かない。食事など日常の世話は全て水谷さんが行っている
真麻さんは、下半身が動かない。食事など日常の世話は全て水谷さんが行っている

 水谷さんは2002年1月、雪印食品が外国産牛肉を国産と偽っていたとしてその悪行を告発した。もうすぐあれから20年がたつ。雪印グループは、水谷さんの告発によって不正に関わった関係者が逮捕され、実質的に解体することとなった。

 02年1月23日。この事件を追っていた新聞2紙がこの日の朝刊一面で雪印食品の偽装をスクープし、くだんの不正を世間が知ることとなった。記事が出る前、水谷さんは2紙の記者の取材に応じ「不正は間違いない」と話した。記事はその告白を基にしたものだ。だが、水谷さんは当初、告発することを考えていなかった。

 話は、半年ほど遡る。

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