組織の多様性を象徴する女性社外取締役の需要が急増している。選任企業は1300社を超え、10年前の約19倍とバブルの様相だ。コーポレートガバナンス・コードの改定などが背景にあるが、人材不足もあって数合わせが優先され、社外取としての質の確保が後回しになっている面がある。社外取の実効性をいかに高めるか。日本のガバナンス改革は道半ばだ。

■本シリーズここまで
(1)最先端のガバナンスで混乱する東芝 社外取締役は必要か
(2)ボード3.0の巨人エクソン アクティビスト社外取が脱炭素を主導
(3)ボード3.0の源流にジョブズ氏も 閉塞感を打ち破るきっかけに
(4)日本でもボード3.0 アクティビストと元経営者のオリンパス改革
(5)丸井グループが掲げる日本版ボード3.0 社外取は長期投資家
(6)富士通と日立の改革支える「外部の目」 社外取が取締役会を活性化

 「女性の社外取締役を探してもらえませんか」──。フリーランスの女性を中心とした人材紹介業のWaris(ワリス、東京・千代田)には2019年ごろから、こうした依頼が徐々に舞い込むようになった。当初は断ることもあったが、企業からの依頼は増える一方。ビジネスになると判断して21年1月、役員クラスの女性の紹介事業に参入した。

 事業開始から今年9月末までの依頼件数は約140。このうち3割が社外取締役の案件だ。求める人材像を企業にヒアリングし、登録者の中から数人を候補として紹介。その後、企業と候補者が2~3回面接し、経営トップや指名・報酬委員会の承認を経て、株主総会で選任される流れだ。

 昨年6月のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改定では、東証プライム(旧東証1部)上場企業に取締役の3分の1以上を、東証が定める要件を満たす「独立社外取締役」にするよう求めた。日本取締役協会によると、東証プライム上場企業の社外取締役の延べ人数は約7000人。過去10年間で約4倍に急増した。中でも引く手あまたなのが女性で、“女性社外取バブル”の様相だ。統治指針の改定で、中核人材として女性や外国人、中途採用者を登用して多様性を確保するよう求められたことなどが背景にある。

女性社外取は10年前の19倍

 企業統治助言会社のプロネッド(東京・港)の調査では、女性社外取締役の選任企業(東証プライム)が今年、1300社を突破。10年前の約70社から実に19倍だ。全体に占める選任企業の比率も4%から71%に急増した。しかし、経営者と対等に渡り合えるほどの知識と経験を備えた人材は少ない。同社の酒井功社長は「ある程度の大企業で役員などの経営経験を持つ女性の候補は限られる。売上高5000億円以上の会社の経験者でいうと、200~300人くらいではないか」と指摘する。だが、統治指針を順守するために女性人材にこだわる企業は多く、経営経験はなくてもエンジニアや研究者といった専門性を持つ女性が次々と登用されている。複数の企業で社外取締役を兼務するケースも少なくないが、それでも足りないのが実情だ。

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