「パワハラにならないように」
ノジマがこのように気を配るのも、あくまでも「接種は任意であり、接種しないことによる不利益を被ることがあってはならない」との原則があるからだ。「接種しない人に対し、会社側からのパワーハラスメントにならないように気を使っている。接種の有無で対応にほぼ差がないのもこのため」(登山氏)。ワクチンに関する施策の前提に、個人意思の尊重がある。
「新型コロナのワクチンの副作用で以前手術をした部分が炎症を起こすかもしれない。だからワクチン接種を希望していない」──。
こう話すのは都内に住む40歳代女性。米国や英国などで同様の手術をした人が新型コロナワクチン接種後に腫れが引かず、訴えを起こしていることも知ったからだ。医療関係者の知人からワクチンの危険性も聞いた。「製薬会社側の思惑に沿ったワクチン利権があるのではないか」。そんな疑問を持つ。総合的に考え、ワクチンを打たないと決断した。自らを「マイノリティーな意見を持っている」と評す。
経営者の30歳代男性は「副作用で苦しんでいる人も多い。国によるワクチン承認のペースが速すぎる」との思いから、ワクチンを打たないことにした。一方で、社員には「ワクチンを打つか打たないかは個人の自由であり、会社として接種状況の把握もしない」と伝えている。自身の考えは周囲に語っており、「ワクチンの効果に疑問を持っていた。社長がワクチンを打たないと言ってくれて安心した」と語る社員もいたという。
海外ではワクチン接種反対デモも
国内ではワクチンを2回接種した割合は70%を超え、3回目の接種も始まる。その一方で、副作用の影響などを考慮し、上記の2人のように打たない人もいる。ワクチン接種は法律上、強制されるものではない。打つか、打たないかの判断は個人の意思に基づく。だが、ワクチン接種率が上がるほど、ワクチンを打っているのが当たり前のように社会的に認知され、「なぜワクチンを打たないのか」という見えないプレッシャーが相対的に高まる可能性がある。
米国では、政府が従業員100人以上の民間企業などに新型コロナウイルスワクチン接種を義務付ける規定を来年1月から導入する方針だ。米バイデン大統領は「ワクチンをまだ接種していない人があまりにも多い」と理由を説明するが、米連邦控訴裁は複数の州や団体が求めていた義務付けの差し止めを認める命令を出すなど混乱が続いている。航空大手の米ユナイテッド航空や、報道機関の米CNNのように、ワクチン未接種を理由に従業員を解雇する例も出ている。
ワクチン接種を義務付ける国もあり、「自由の侵害だ」などとして反発するデモも乱発している。12歳以上のワクチン接種率が8割を超えているイタリアは、政府が職場での証明書所持の義務付けを表明したところ、1万人規模の抗議デモが行われるなど、社会の分断も起きている。

一方の日本では、予防接種法でワクチン接種が「努力義務」と定められている。こうした中、厚生労働省はワクチン接種と雇用関係に関する指針を明記。新型コロナワクチンの接種を拒否した場合、「拒否だけを理由とした解雇、雇い止めは許されない」、ワクチン未接種者を人と接しない業務に配置転換できるかについて「労働者の理解に努め、同意を強要すればパワーハラスメントにあたる可能性がある」などとした。だが、ワクチン接種歴に応じた従業員の管理について、明確な法律などはない。そのため、ワクチン接種の有無でどう対応すべきかについて、頭を悩ませる企業は多い。
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