「ワクチンを打ったんですね。私もこれから打とうかと思ってました」

 家電量販ノジマの大和店(神奈川県大和市)の綿引翔一店長は、男性客からこう声を掛けられた。男性の視線の先は、店長の名札横に貼ってある「接種済」と書かれたシール。シールの下に「9」という番号が印字されている。

 綿引店長は「社内で9番目に打ちました。9は、それを示している数字です」と答えた。短時間の会話でも、男性客は少し安心したようだった。

ノジマでは8月から、店員が任意で接種済みシールを付けて対応している
ノジマでは8月から、店員が任意で接種済みシールを付けて対応している

 ノジマは8月から、新型コロナウイルスワクチンを2回接種した社員が任意で同社が発行する接種済みシールを貼って接客すると決めた。店員の接種状況が見えることによって、顧客に安心して買い物をしてもらう狙いだ。一方で、社員に「ワクチンを接種しなければならない」という無言の圧力がかかる危険性がある。シール導入に際して会社はどのような点に注意したのか。

 「あくまで任意、という点を社内で強調した」。こう語るのは、同社人事労務グループの登山征一氏だ。

 「ワクチン接種を積極的に行うことで社会貢献しよう」という会社のスタンスがあったが、それを強制することはできない。ならば、全て任意という形にし、やれる人からやってもらうという発想だ。まず、ワクチン接種対象の全従業員に対し、ワクチンを打つか打たないかのアンケートを実施。このアンケートに答えるか、答えないかも自由だ。

 接種済みのシールは、職域接種の会場となった本社で接種後に受け取ることができる。シールをもらうか、もらわないかも本人次第だ。社員が住む自治体や勤務する店舗に近い商業施設などでワクチンを接種したときは、希望すれば、本人に届けるようにしている。

 「接種可否について厳密な情報管理もしていない。接種に関する社員アンケートに未回答の人は全体の2~3割いる。その中にワクチンを打っていない人がいることになるが、それ以上は把握していない」と登山氏。

 ワクチン接種済みの人が有利になるのは、主に接種後に発熱した場合に有給休暇扱いにできるという点だけ。それ以外に接種の有無で会社側の対応に差はなく、ワクチンを打たない人が不利益を受けないように配慮しているという。

「ワクチン接種有無について厳密な情報管理はしていない」と語る登山氏
「ワクチン接種有無について厳密な情報管理はしていない」と語る登山氏

 営業現場の反応はどうか。大和店では、約30人いる店員の半分程度が接種済みシールを貼って対応している。綿引店長は「今はワクチンを接種しているのがほぼ当たり前となっており、来客の反応はそれほどない。逆に、『シールを貼っていない店員は大丈夫なのか?』と見られる可能性もあるので、もしも不安に思う客がいれば、制度の趣旨を丁寧に説明するなど、従業員のフォローをしっかりしたい」という。マネジメント層のワクチン接種に絡む配慮は、顧客だけではなく、従業員にも向いているようだ。

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