企業革新に必要な社外の人材を取締役に招く「ボード3.0」。名付け親で、米コロンビア大学のロナルド・ギルソン名誉教授によると、米アップルのスティーブ・ジョブズ氏の時代から先進的な経営者の間では受け入れられていた発想だという。日本企業の閉塞感を打ち破るきっかけにもなり得るボード3.0の“効能”を、ギルソン名誉教授に聞いた。

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米コロンビア大学ロースクールのロナルド・ギルソン(Ronald Gilson)名誉教授
米コロンビア大学ロースクールのロナルド・ギルソン(Ronald Gilson)名誉教授
1946年生まれ。68年米ワシントン大学卒、71年米スタンフォード大学法務博士取得。専門は企業統治や企業財務など。スタンフォード大名誉教授も務める。

 会社の革新に必要な社外の人材を取締役に招く「ボード3.0」の発想は、うまく利用すれば大きな成果を上げるが、使い方を誤れば会社を危機に陥れかねない。1985年にスティーブ・ジョブズ氏を社外に追放した米アップルの取締役会も、そんな「3.0的な社外人材活用」に失敗した例と言える。

 ジョブズ氏は、私と(共同で3.0を提唱する)ジェフリー・ゴードン教授がボード3.0を提唱するずっと前から、社外の人材を経営に生かす発想を持った経営者だった。81年にアップルのコンピューター「マッキントッシュ」を広く普及させるためにマーケティングにたけた人材を自ら探し、当時、米ペプシコ社長だったジョン・スカリー氏を招集した。だがスカリー氏は、アップルの経営が悪化すると「原因はジョブズ氏にある」と考えるようになり、取締役会の承認を得て同氏を追放してしまう。その後も業績のさらなる悪化を招いたスカリー氏に疑問を抱いた取締役会は、91年に同氏を追放し、97年にジョブズを取締役会に呼び戻した。

人選には慎重さも必要

 ジョブズ氏の復帰がなければ、その後にアップルが時価総額3兆ドル(約450兆円)規模の会社に成長することはなかっただろう。取締役会が会社の命運を決めるうえで重要な役割を果たしていることを示す象徴的な事例で、社外の人材を自社に招く際は慎重な人選が重要であることが分かる。

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