新型コロナウイルスのワクチン接種を巡る、企業の従業員への対応が議論を呼んでいる。外食業界では人手不足も重なり、安全対策と人材採用の両面から「ワクチンインセンティブ」の導入も活発だ。一方で「ワクチン未接種だからと不利益になってはいけない」と警鐘を鳴らす有識者も。企業のワクチン対応はどうあるべきなのだろうか。

 外食業界の中でも従業員のワクチン接種など安全対応に苦心しているのが、来店客との接触が多い居酒屋業態だ。ワタミは緊急事態宣言が全面解除された10月1日以降、休業店舗の再開に合わせて社員とアルバイトを対象に新型コロナウイルスの抗原検査を2週間ごとに実施している。従業員は接客時に検査済みであることを示すバッジを着用する。実施する業態は「三代目 鳥メロ」「ミライザカ」「焼肉の和民」といった接客業務の多い約330店舗。ワクチン接種の有無は関係なく、これらの店舗で接客にあたる全ての従業員が検査を実施する。

ワタミは居酒屋や焼肉店で働く従業員に対して定期的な抗原検査を実施している
ワタミは居酒屋や焼肉店で働く従業員に対して定期的な抗原検査を実施している

 就業前に従業員自身で検査を行い、陰性が確認されてから接客対応を行う。検査にかかる費用は全額会社側が負担しており、「ワクチン接種が全国に行き届くようになると見込まれるまで、年内は検査を続けたい」(渡邉美樹会長)という。このほか、店舗入り口で検温するサーマルカメラの導入など、感染症対策に月1000万円を投じている。

 こうした取り組みに加え、現在ワタミが検討しているのが、接客に臨む従業員がワクチン接種を終えたことを示すバッジを着用するという施策だ。まず実験的に居酒屋1店舗で実施することを考えているという。「顧客と従業員、双方にとって安心安全でベストな取り組みが何なのか、慎重に検討したい」と同社広報担当者は話す。

 検討段階にもかかわらず、この件がニュースサイトで報道された際は「コロナ差別を助長する」「ワクチンを接種しても他人に感染させる恐れはあり、『安全』とは言い切れない」といった否定的な意見も多く見られた。

 ワタミの場合、ワクチン接種済みの従業員に「安全マーク」を着用させることを検討しているといった情報は8月中旬に明らかになったが、現時点でまだ実現に至っていない。

 国内ではワクチン接種が進んでいる。国が公表するデータ(11月5日時点)によると、ワクチンを2回接種した割合は73.1%に上る。ワクチン接種歴や新型コロナ感染陰性を確認する仕組みの導入によって行動制限を緩める「ワクチン・検査パッケージ」の実証実験も各地で進んでおり、12月以降に接種証明アプリの運用も始める予定だ。

 感染を抑止しながら経済をいかにうまく回すか。そうした観点が今後さらに重要になるのは言うまでもない。ただ企業にとっては、「ワクチンを打っている人、打っていない人について、対外的にどこまで示せるのか、どこまで便宜の差を許容できるのか」という難しい問題が残る。

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