大手に頼り、独立経営者が育たず
長崎から上場企業が消え、新たに生まれないのはなぜか。専門家や地元企業関係者の話から、2つの側面が浮かび上がる。
1つが大手企業への依存だ。長崎は三菱重工業発祥の長崎造船所や三菱電機の工場があり、「良くも悪くも大手の下で仕事をすれば飯を食べていけた。そのため、独立して会社を大きく飛躍させようという経営者が育たなかった」(長崎の経営者)という見方だ。
次に、長崎県が1億円、長崎市が約8600万円を投入していた薬品開発のベンチャー企業「バイオラボ」が08年に経営破綻したことで、その後に公的機関がスタートアップ支援にちゅうちょするという“空白の10年間”があったことだ。今はCO-DEJIMA事業などによって支援態勢が整ってきたが、競争が激しくスピードが勝負のスタートアップ領域での支援整備に出遅れ感は否めない。
こうした中、将来の上場を宣言している企業もある。エイチ・アイ・エス(HIS)子会社で、テーマパーク運営のハウステンボス(佐世保市)は、22年の東証上場を目指していた。HISは21年度期間中、新型コロナウイルス禍の影響を受けて過去最大の最終赤字に陥っており、21年10月期の通期業績を未定としている。金融関係者は「ハウステンボスの上場スケジュールは見直しを迫られているのではないか」と話す。
長崎県諫早市の半導体メーカー、イサハヤ電子は、東証の市場再編後を見据え、数年内に上場する準備を進めている。実現すれば、長崎県内に本社を置く企業の株式上場は1975年の旧親和銀行の東証・大証1部上場以来となり、製造業ではイサハヤ電子が初めてとなる。
株式上場の意義について、同社の井嵜春生会長兼社長は「企業が永続して成長し、社員に夢や希望を持たせるためだ。公の企業になるためにガバナンス(企業統治)体制も整えてきた。社内外でチャレンジする人を応援し、地域により貢献できるようにしたい」と語る。

上場ゼロを解消しようと、行政が支援に動き、企業も上場を目指す動きがある長崎県。一方、全国的に知名度の高いジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)が上場はしないと宣言している(本連載で社長インタビューを掲載予定)。「長崎県は観光などの第3次産業が盛んで、小規模事業者が多く、経営者の世代交代が進んでいない。上場企業が増えるだけで、こうした根本的な問題が解決するものではない」(長崎経済研究所の泉猛・主任研究員)という指摘もある。
雇用の受け皿が減り、若者の流出が止まらず、スタートアップもなかなか育たない。長崎の厳しい状況は、目の前に迫る東証の市場再編も引き金になる「上場ゼロ」のインパクトの大きさを改めて示している。
何のために上場するのか。上場企業の存在意義とは何か──。東証再編という歴史的なイベントは、市場関係者や企業経営者に根源的な問いを投げかける。
本シリーズでは、プライム市場残留へ向けた戦いの最前線を追うと同時に、スタートアップ企業の資金調達やガバナンスのあり方など、「上場とは何か」を改めて考える。
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