上場企業ゼロ県・長崎の現実

 既に全国唯一の上場企業ゼロの県がある。長崎県だ。当然、1部上場企業もない。上場企業がないという状況は、地元経済にどのような影響を与えているのか。

 「若者人口の流出が進んでおり、流出を食い止める対策の成果が上がっていないという話があった」──。

 9月2日、長崎の経済界幹部と会合した日銀政策委員会の片岡剛士・審議委員は会合後の記者会見で、長崎に上場企業がゼロである現状を記者から問われ、こう明かした。有望な若年層の受け入れ先がなく、流出が止まらない現状への地元財界の憂いがうかがい知れる発言だ。

 長崎県では、加速する人口減少を見越して、長崎市の十八銀行と、長崎県佐世保市の親和銀行を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループが2019年に経営統合。県内で唯一の上場企業で東証1部だった十八銀が上場廃止となった。

深刻な人口減少が続く長崎県の長崎市。若者の流出が特に顕著で、地域経済への影響が心配されている(写真:PIXTA)
深刻な人口減少が続く長崎県の長崎市。若者の流出が特に顕著で、地域経済への影響が心配されている(写真:PIXTA)

 長崎県の人口減少は深刻だ。人口は1960年の176万人をピークに、21年(3月31日)は130万人に減少。全国(ピークは07年)の動向よりも「約50年早く人口減少が始まっている」といわれる。国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づくと、60年には約78万人と約4割減となる。

 深刻なのが15~24歳の若年層の動向だ。毎年4000~5000人の転出超過となっており、県内大学を卒業した県内出身者の約3割が県外に転出しているという。特に長崎市は、転出者が転入者を上回る「社会減」が、18年(日本人2376人)と19年(同2772人)の2年連続で全国の市区町村別で最多となった。5年に1回行われる20年の国勢調査では、長崎市の人口減少数が、北九州市と新潟市に次ぐ全国ワースト3位だ。

スタートアッププレーヤーが少ない

 「十八銀関係者が多い長崎経済界では表立って言う人があまりいないが、上場企業がないことが人口流出に影響しているのは間違いない。22年秋に福岡・長崎間の九州新幹線西九州ルートの一部開業も予定しており、関心はより県外に向く」とは、ある金融関係者の弁だ。

 若年層を中心とした人口減少は、長崎のスタートアップ企業の動向にも影を落としている。

 19年から外郭団体の長崎県産業振興財団が運営している「CO-DEJIMA(コ・デジマ)」。かつて国内で唯一開かれた長崎・出島にある施設で、起業希望者にセミナーなどを通じて、起業前の予備軍を育成し、起業家の裾野拡大を狙っている。

 今年6月までに1日平均15人が利用し、会員数は500人超。10~20代の会員は全体の3割弱を占め、企業経営者や企業などとの交流も盛んに行ってきた。長崎大、長崎県立大などと連携し、IT企業とのAI(人工知能)やロボットなどに関する交流会も開かれた。

19年に営業開始したスタートアップ支援施設CO-DEJIMA。会員の3割弱が10~20代だ
19年に営業開始したスタートアップ支援施設CO-DEJIMA。会員の3割弱が10~20代だ

 だが、こうした活動も緒に就いたばかり。CO-DEJIMAの会員で16年に長崎に移住してIT系の事業を始めた男性は「人脈がゼロで長崎に来たが、いろいろな立場の方々と知り合えてありがたかった。だが正直にいえば、スタートアップのプレーヤーは他県よりも少ないと感じる」と語る。別の会員の男性も「長崎で起業したいという人も増えた印象だが、具体的にどうしたいのかが明確ではなく、生ぬるいと感じる人もいる」という。

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