不祥事や好業績の背景に潜むという「社風」。曖昧な存在だが、一朝一夕では変革が難しい社風を、どうつくり、維持していくのか。特集「『社風』とは何か」では、社風と向き合う企業の今を追っていく。連載第1回は稲盛和夫氏が1959年に創業した京セラ。「フィロソフィ」と呼ぶ独自の経営哲学をベースに自発的にチャレンジする社風を作り上げてきた同社が、社風改革に乗り出している理由は何か。

 稲盛和夫氏が1959年に創業した京セラ(当時は京都セラミツク)。「人間として何が正しいのか」「人間は何のために生きるのか」という根本的な問いに真正面から向き合い、人間性や社会貢献を追求する「フィロソフィ」と呼ぶ独自の経営哲学をベースに、小集団で部門別採算管理を徹底する「アメーバ経営」などの活動を推進。現場が主役となり、自発的にチャレンジする社風を醸成してきた。

2019年に開催された盛和塾の最後の世界大会(写真:共同通信)
2019年に開催された盛和塾の最後の世界大会(写真:共同通信)

 フィロソフィの信奉者は国内外に多数存在する。36年にわたって活動した「盛和塾」は、2019年の終了時点で国内56拠点、海外48拠点となり、塾生数は約1万5000人に上った。解散した今なお、実践する経営者は後を絶たない。

 だが、その「総本山」ともいえる京セラの谷本秀夫社長は、17年の経営トップ就任当初、真逆の危機感を抱いていた。「チャレンジ精神が現場から感じられなくなっている」

経営の根幹を成すアメーバ経営にきしみ

 谷本社長が危機感を抱く背景にあるのが、組織や事業の拡大だ。創業から60年以上が経過し、通期の連結売上高は今や1兆5000億円を超えた。個別事業の人員も増え、100人を超える部門も少なくない。

京セラの谷本秀夫社長は、現場のチャレンジ精神の低下に危機感を抱いていた
京セラの谷本秀夫社長は、現場のチャレンジ精神の低下に危機感を抱いていた

 これが経営の根幹を成すアメーバ経営にきしみを生じさせている。谷本社長は、「私が若いころは5~10人の同世代で活動していたので何でも言い合えた。でも今は小集団の規模も20~30人と多く、世代も18歳から60代まで幅広い。若い世代は『どうせ意見を言っても通らない』と、ものが言いづらくなっている」と明かす。京セラの成長をけん引するはずのアメーバ経営がむしろ「組織の硬直化につながっていた」(谷本社長)というわけだ。

 「フィロソフィは不変。だがアプローチは時代に合わせて変えていく」と谷本社長。若手を中心にチャレンジする社風を取り戻すべく、社長就任以降、新たな仕組みづくりを急いでいる。

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