ROE(自己資本利益率)8%超や株主との対話の重要性を唱えた「伊藤レポート」で知られる、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏(関連記事:「伊藤レポート」生みの親が憂う 理念を額縁にしまったままの日本企業。研究者としてだけではなく、自身もセブン&アイ・ホールディングスなどの社外取締役として経営に携わる。セブン&アイは、米アクティビスト(物言う株主)のバリューアクト・キャピタルが社外取締役の少なさや、スーパー事業の切り離しを訴えるなど緊張関係にある。株主とどう対話に臨んでいるのかを語った。

伊藤 邦雄[いとう・くにお]
伊藤 邦雄[いとう・くにお]
専門は会計学・ファイナンスやコーポレートガバナンス論、企業価値経営論など。一橋大学大学院商学研究科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。2014年に経済産業省のプロジェクトで、ROEは8%超が望ましいとした、いわゆる「伊藤レポート」を公表した。セブン&アイ・ホールディングス、東レ、小林製薬などの社外取締役を務める。19年5月よりTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)コンソーシアム会長(写真:的野弘路)

アクティビストや機関投資家の関心事はどこにあるのでしょうか。

伊藤邦雄・一橋大CFO教育研究センター長(以下、伊藤氏):社外取締役として、アクティビストと対話してきました。特定のアクティビストのみならず、他の海外の機関投資家とも集中的に対話しましたので、彼らが何に強い関心を持っているかは感じています。資本市場に通じ、投資家の考え方が分かる社外取締役が入っているのかと異口同音に言っていますね。

アクティビストの増加で、日本企業の資本コストへの意識が高まったと感じますが、いかがでしょうか。

伊藤氏:アクティビストも様々いますね。どうでしょうか。物言う株主はガバナンスに強い関心があり、取締役会メンバーの多様性や構成に強い関心を持っています。そもそも日本企業は社外取締役が少ない。彼らからすると、取締役会の過半が社外というのは当たり前という感覚です。

セブン&アイ・ホールディングスの社外取締役を務められています。そごう・西武の売却検討が話に出ていますね。(関連記事:「物言う株主」がセブンに迫る“開国” イトーヨーカ堂売却も要求)。

伊藤氏:セブンに限らず、「ベストオーナー論」という視点が日本でも少しずつ出てきています。本当に今の会社がこの事業を保有していることが良いのか、つまりベストオーナーなの?と。別の会社に経営してもらい、資金を投入してもらった方が社員も含めてハッピーなんじゃないですかという議論は日本で薄かった。良い事例とされているのが、2019年にオムロンが日本電産に売却した車載事業ですね。

そごう・西武の売却について、アクティビストはどう考えているのでしょうか。

伊藤氏:アクティビストとの対話とはあまり関係がなくて、(そごう・西武売却の)議論はずっと前から行っていた。ただ、コロナ後しばらくは、譲渡先の相手側も疲弊していて(十分な買収資金が確保しづらいので)なかなか難しかったということです。

アクティビストは怖いもの、何か言うことを聞かなければいけないものというような印象があります。

伊藤氏:それはまったくないです。向こうのキーパーソンと何度か対話はしていますが、理にかなっているところもあるし、理解が浅いなと思うところもあるし。

投資家はESG(環境・社会・企業統治)への関心が高いのでしょうか。

伊藤氏:海外の機関投資家から突然、(自社だけでなくサプライチェーンの温室効果ガスの排出量を指す)スコープ3に対して、どう対応しているんだという質問が来るんですよ。

温室効果ガス排出量のスコープ1、2、3とは

スコープ1:自社の活動に伴い、直接輩出した温室効果ガス

スコープ2:活動に必要な電力消費に伴う間接排出

スコープ3:原材料や通勤、輸送などを含めた間接排出(自社活動に関連する他社の排出)。1、2、3の合計がサプライチェーン排出量

スコープ3は高いハードルですね。

伊藤氏:スコープ1、2と順を追ってではなくて、いきなりスコープ3はどうしているんだと。このときは米国の投資家でした。投資家は、サプライチェーン上に色々なリスクがあり、それがとんでもないリスクになる可能性があると考えて、企業がスコープ3にどれくらい向き合っているかを尋ねています。きれい事で質問しているわけではないのですが、日本企業ではまだスコープ3はきれい事になってしまっています。TCFDが昨年10月に出したガイダンスは、スコープ3の開示を強く推奨しています。最初は「義務付け」と言っていましたが、「強く推奨」に落ち着きました。

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