自分が働いている会社は何を目指しているのか、そして自分はどう貢献できるのか──。コロナ禍で広がったリモートワークは生産性向上の一助となり、従業員に「働きがい」を考える時間を増やした。創業者らがつくった企業理念を額縁に飾ったままでは、パーパス(存在意義)があやふやになり、かえって生産性が落ち、離職を増やしかねない。経営陣は従業員とどう対話し、理念を浸透させればいいのか。自己資本利益率(ROE)8%超が望ましいと提言した「伊藤レポート」で知られる、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏に聞いた。
![伊藤 邦雄[いとう・くにお]](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/gen/19/00304/050900086/p1.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=080490b904)
信託協会の「企業のESG(環境・社会・企業統治)への取り組み促進に関する研究会」座長として、「ESG版伊藤レポート」をまとめられました。企業理念やパーパス(存在意義)の明確化と、マテリアリティー(重要課題)の特定が重要と指摘しています。
伊藤邦雄・一橋大CFO教育研究センター長(以下、伊藤氏):SDGs(持続可能な開発目標)には、(貧困や飢饉、ジェンダーなど)17の目標がありますが、日本企業は自社の事業や業務の全てをひも付けようとして、投資家はへきえきしているんですよ。17の目標のうち、どれにこだわっているのかを明確にしないと、腹に落ちないんですよね。
マテリアリティーというとバタ臭い(西洋かぶれ)のですが、会社が重要と考える社会課題は何か、それを解決するためにどんな戦略を打つのか、そしてSDGsのどれを重要視するのか、というストーリーを、パーパスとマテリアリティーで説明しようということです。
コロナ禍以降、私自身も「日経ビジネスのパーパスとは何か」を考える時間が増えました。
伊藤氏:コロナ禍で業務がオンライン化し、働く人たちに時間ができました。改めて「Why?」を発する時間が増えたということです。なぜこの会社で働いているのか、何をもって自分は貢献するのか。Why?は本質的な問いです。WhatでもHowでもない。
2014年に最初の「伊藤レポート」を出した当時、経営者やIR担当者は、「投資家が会社の理念に興味を示さない」「それより業績の数字はどうなんだと聞いてくる」と、フラストレーションをためていました。今、同じようなフラストレーションが、社員にもたまっています。企業理念はあるけれど、社内でほとんど議論をしない。入社初日に1時間半ぐらい説明を受けて、その後、何かディスカッションするかといえば、ほとんどない。
創業者や、過去の経営者が企業理念をつくることが多いので、今の社員にしてみれば、「会社に入ったら既に何か理念のようなものがあり、それは額縁に入っていた」というわけです。企業理念だろうが、パーパスだろうが、言葉はどちらでもいいんですよ。価値観を掲げ、経営陣と従業員が対話することが大事なんですよね。日本企業は、対話をやらなさすぎる。
なぜ、対話が少ないのでしょうか。
伊藤氏:メンバーシップ型の日本の雇用慣行に本質的な原因があると考えています。一度、会社の一員に加わると、「理念を知っているのは当たり前でしょう」というところがあるじゃないですか。長くこの会社に勤めるなら、理念をちゃんと勉強するのは、当然だよね。暗黙知的な同調圧力です。
1980年代、米国企業は日本の経営者を恐れていた
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