パワハラという言葉は和製英語だ。2001年にメンタルヘルス研修やハラスメント防止のためのコンサルティングなどを手がける、クオレ・シー・キューブ(東京・千代田)の岡田康子会長が生み出した。パワハラという言葉の“誕生”から20年余り。ハラスメントを取り巻く日本の状況をパワハラという言葉の生みの親はどう見ているのか。岡田会長に話を聞いた。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する可能性もあります
(1)威圧的な説教に公私の拘束も、なぜパワハラはなくならないのか
(2)いつの間にか「パワハラ大国」のニッポン ハラスメント保険に殺到
(3)あなたもパワハラ予備軍かチェック、「グレーゾーン」に気を付けろ
(4)「XXハラ」増殖のニッポン、ハラスメント大全を公開
(5)先進企業のパワハラ対策に学ぶ、ネットフリックスは撮影前に議論
(6)パワハラは人権問題 トヨタ、パナソニックが得た教訓
(7)「パワハラは上司のエゴだ」、元パワハラ上司が変心できた理由
(8)Jリーグ前理事が語る日本サッカー界のパワハラ「表に出るのは救い」
(9)「パワハラあっても何もできない」、法整備も対策進まぬ中小の苦悩
(10)パワハラ誕生から20年、名付け親が抱く懸念「救済から排除の言葉に」(今回)

岡田康子(おかだ・やすこ)氏
岡田康子(おかだ・やすこ)氏
1954年生まれ、埼玉県出身。78年中央大学文学部卒。早稲田大学大学院経営学修士(MBA)修了。90年にクオレ・シー・キューブを設立。著書に「パワーハラスメント」(日本経済新聞出版)など。

2001年にパワハラという言葉を生み出しました。どういった状況下で生まれたのでしょうか?

クオレ・シー・キューブの岡田康子会長(以下、岡田氏):セクシュアルハラスメント(セクハラ)は当時すでに企業が対策に乗り出していた問題でした。でも、当社がクライアントと関わる中で、性的な嫌がらせではなく、社員が例えば上司から「書類を目の前で破られる」「灰皿を投げつけられる」といったハラスメントに関する悩みも多く挙がってきました。そうしたものをパワー、つまりは「権力」を背景に行われるハラスメントであるとして「パワーハラスメント」と呼ぶようにしたのです。今ではこうした暴力的なパワハラは少なくなったと思いますが、当時は本当にひどい時代でした。

 パワハラがいじめと異なるのは文字通り、「パワー(権力)」が関係していることです。「業務上の力」と言い換えてもいい。いじめは「耐える、逆らう」こともできなくはないですが、業務上の権力にはあらがうことが難しいでしょう。そうした「パワー」が関係している点がいじめとは異なります。

個よりも組織を大事にする風潮が影響

パワーハラスメントという言葉は和製英語だそうですね。なぜこの言葉は日本特有なのでしょうか。

岡田氏:英語では「Workplace Bullying」という言葉がありますが、これは単に「職場でのいじめ」を意味します。なぜ、パワハラという言葉が日本で一般的なのかは、やはり「個よりも組織を大事にする」という風潮、社会的規範の強さが影響していると思います。日本の労働市場はいまだに「就職」ではなく、「就社」の側面が強い。組織の力、地位の力が強い社会なので、「組織で生きるためには我慢が美徳」といった文化が根付いています。結果として、パワハラを受けても被害者が我慢してしまい、さらに加害者の行為を助長しているのです。

 とはいえ、労働力の流動性が高まって海外のように「嫌なら会社を辞めてしまえばいい」という意識が広がれば状況も変わると思います。優秀な人から組織を離れるでしょうから。新型コロナウイルス禍でリモートワークが普及したことは、1つの転換点になり得ます。これまではどんなに優秀な人でも、通勤圏内でしか仕事ができなかった。例えば山口県にいる人が、東京の仕事を受注することは難しかったわけです。でも、今はそんなことはなくなりましたよね。

パワハラという言葉が生まれて20年余り。この間の日本の状況や社会的なパワハラへの意識の変化などをどう見ていますか。