2022年4月からパワハラ防止法の適用対象が中小企業にも広がる。大企業に比べて組織の人材流動性が低く、人間関係も閉鎖的になりがちな中小企業は、パワハラが起きる危険性が高く、対策は急務だ。ところが、現場からは「正直パワハラ対策にまで手が回らない」と苦悩の声も聞こえてくる。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する可能性もあります
(1)威圧的な説教に公私の拘束も、なぜパワハラはなくならないのか
(2)いつの間にか「パワハラ大国」のニッポン ハラスメント保険に殺到
(3)あなたもパワハラ上司かチェック、「グレーゾーン」に気を付けろ
(4)「XXハラ」増殖のニッポン、ハラスメント大全を公開
(5)先進企業のパワハラ対策に学ぶ、ネットフリックスは撮影前に議論
(6)パワハラは人権問題 トヨタ、パナソニックが得た教訓
(7)「パワハラは上司のエゴだ」、元パワハラ上司が変心できた理由
(8)Jリーグ前理事が語る日本サッカー界のパワハラ「表に出るのは救い」
(9)「パワハラあっても何もできない」、法整備も対策進まぬ中小の苦悩(今回)
(10)パワハラ誕生から20年、名付け親が抱く懸念「救済から排除の言葉に」

 「パワハラで配置換えや処分を厳格に実施していては、人手不足で事業が回らなくなってしまう」――。関東地方に本社を置くある金属加工メーカーの総務担当管理職は、匿名を条件に本音を漏らす。

 今年4月、中小企業へ適用が拡大する改正労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)。(1)職場において行われる「優越的な関係」を背景にしている、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えている、(3)労働者の就業環境が害される、の3要件が重なれば法的にパワハラとして認められるようになった。だが、冒頭の発言通り、対応に迫られるはずの中小企業からは困惑の声が広がっている。

中小企業ではパワハラ防止の対策が進んでいない企業も少なくない(写真=PIXTA)
中小企業ではパワハラ防止の対策が進んでいない企業も少なくない(写真=PIXTA)

 この金属加工メーカーは、社員数が100人超で全国に営業所を構えている。総務担当管理職によると、「パワハラが疑われる出来事は少人数で閉鎖的な営業所などで起きている」という。「特定のベテラン社員が、20~30歳代の若手を厳しく叱責して退職が続出したケースもあった」と明かす。

 具体的には、ある50代の男性社員が、家族旅行を理由に休日出勤を拒んだ若手社員を、会議室で2時間以上叱責していたという。他にも、あるベテラン社員がトラブルへの改善案を示さないまま、「このままだと君の仕事はないよ」となじるような言動を繰り返した例もあった。

「配置転換していたら業務が回らない」

 長時間にわたる密室での叱責、プライバシーへの過剰な干渉、人格否定――。これらはいずれもパワハラ認定される可能性が高い。ただ、この金属加工メーカーでは「パワハラ社員」であっても異動や懲戒処分が下されることはほぼないという。「パワハラだからといって配置転換していては、業務が回らない」(総務担当管理職)というのがその理由だ。「経営層も営業成績など個人の能力には目を向けるが、こうしたハラスメント行為はとがめずにいる」と実情を明かす。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1501文字 / 全文2778文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「ガバナンスの今・未来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。