ハラスメントの影が拭えないのは企業だけではなく、スポーツ界も同様だ。Jリーグでは近年、サガン鳥栖など3クラブでパワハラが発覚。サガン鳥栖は該当の監督が退任後、Jリーグ監督に必要なライセンスからの降格を言い渡される異例の事態に。スペインリーグで約30年指導に当たってきたJリーグ前理事の佐伯夕利子氏に、Jリーグのパワハラ事情はどう見えたのか。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する可能性もあります
(1)威圧的な説教に公私の拘束も、なぜパワハラはなくならないのか
(2)いつの間にか「パワハラ大国」のニッポン ハラスメント保険に殺到
(3)パワハラ上司予備軍かチェック、「グレーゾーン」に気を付けろ
(4)「XXハラ」増殖のニッポン、ハラスメント大全を公開
(5)先進企業のパワハラ対策に学ぶ、ネットフリックスは撮影前に議論
(6)パワハラは人権問題 トヨタ、パナソニックが得た教訓
(7)「パワハラは上司のエゴだ」、元パワハラ上司が変心できた理由
(8)Jリーグ前理事が語る日本サッカー界のパワハラ「表に出るのは救い」(今回)
(9)「パワハラ防止法」が中小に適用拡大も、対策進まぬ現場
(10)パワハラ誕生から20年、名付け親が抱く懸念「救済から排除の言葉に」

 日本サッカー界では前例のない「厳罰」だった。日本サッカー協会(JFA、東京・文京)は3月10日、サガン鳥栖で選手やスタッフへの常態化したパワハラ行為が認定された金明輝前監督に対して、Jリーグ監督に必要な最上位のS級から1つ下のA級(ジェネラル)にコーチライセンスを降級させると発表した。

サガン鳥栖などハラスメント問題で揺れるJリーグ(写真:アフロ)
サガン鳥栖などハラスメント問題で揺れるJリーグ(写真:アフロ)

 Jリーグはすでに2021年末に第三者の調査チームによる詳細の報告書を公表。選手へのパワハラ行為で8試合の公式戦出場資格停止やけん責を命じていたが、JFAは「有形力の行使が回数として多く、暴言、暴力の対象が未成年に及んでいる」(JFAの反町康治技術委員長)として、処分に踏み切った。

 発端は21年6月、サガン鳥栖でトップチームの練習中に金監督が選手を押さえながら足払いし転倒させた事件だ。これを受け金監督の指揮資格は一時的に停止。だがJFAへの相談窓口に「過去にも暴言や暴力行為があった」と告発があり、本格的な調査に発展した。

ユースチームでパワハラが多発

 クラブ関係者90人に対して延べ100回のヒアリングがなされた結果、金氏はサガン鳥栖U-18の監督だった16年以降、ユースチームやトップチームに所属する選手のプレーや態度に不満を覚えた際、激高して選手の至近距離で大きな声で叱責する、選手の胸ぐらをつかんで突き飛ばす、平手打ちをするなどの行為に出ていたことが発覚。調査書では特にユースチームでの高校生へのパワハラ行為の多さにも触れている。

 「選手起用などについて意見を述べた選手を突き飛ばし、同選手が自動販売機にぶつかった。さらに手を出しそうでスタッフが制止した」「たまに殴られたりしても、当たり前のことだと思っていた」「げんこつでたたかれた。たんこぶができたこともあった」――。

 数々の証言からは、学生時代にパワハラを受けることで、暴力が当たり前だと思ってしまう恐ろしさすら浮き彫りになった。調査書でも「高校生に対する暴力行為に該当するもので、教育面からも強く非難されるべきだ」と言及されている。

 Jリーグのパワハラは今回のサガン鳥栖の件に加え、19年の湘南ベルマーレ、21年の東京ヴェルディと近年で3件続いた。JFAは同時に東京ヴェルディでパワハラ行為が認定された永井秀樹前監督も、S級資格を今年12月まで停止としている。