社長を誰にするかは、企業の盛衰を決定づける最重要事項と言っていい。原材料価格の高騰、金利上昇、サプライチェーン(供給網)の寸断…。経済環境が激変する今は、さらに難しい課題となっている。この連載では、今、日本企業の経営者が後継選びの何に悩み、どのようにベストの選択をしようとしているかを追った。1回目は、後継選びで3度にわたってつまづいた日本電産の永守重信会長CEO(最高経営責任者)に、長い苦悩の思いと、苦心の果てにたどり着いた対策を聞いた。

永守重信[ながもり・しげのぶ]氏
永守重信[ながもり・しげのぶ]氏
1944年生まれ。67年職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒。73年に日本電産を創業。2014年、会長兼務。18年6月から会長CEO、21年6月会長専任となったが、22年4月に再びCEOへ復帰(写真:太田 未来子)

次の社長候補となる5人の副社長を社内から選任しました。1年後にその中から社長を選ぶとのことですが、今回はどんな基準で5人を決めたのですか。

永守重信会長CEO(以下、永守氏):彼らをどうやって決めたかと言えば、最も大事にしているものを体得しているかどうかです。業績を挙げたかどうかはもちろん重要だけど、最もと言っていいのは、日本電産イズム、永守イズムなんですよ。当社には、私が1973年に創業して以来、つくり上げてきた3大精神、3大経営などのイズムがあります。これこそが、日本電産の基本であり、最大の強みなんですから。

 3大精神というのは、「情熱・熱意・執念」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「知的ハードワーキング」。3大経営手法とは、「井戸掘り経営」「家計簿経営」「千切り経営」と呼んでいるものです。例えば井戸掘り経営は、大抵の場所で土を掘れば水が出て、井戸になりますね。だけど、くみ上げないと新しい水は出ない。改革や改善のためのアイデアも同じ。常にくみ上げ続けるから、新しいものが出てくる。これだけのアイデアを出したから、もう終わりということはない。続けるのが大事ということなんです。

 「千切り経営」は、何か問題が起きたら、それを小さく切り刻めということ。難しそうに思えるものでも、小さく切り刻んで対処していけば、問題解決の糸口は見つかるという考え方です。どれも徹底すること、諦めないことが重要なのです。

「日本電産を愛し、イズムを理解し、成長させる気持ち」

新たに選んだ5人の副社長は全員、新卒で入社したプロパーではありません。後継候補として、2013年春から22年9月までに社長含みで招いたり、社長に据えたりした3人とはどう違うのですか。

永守氏:(後継候補だった)3人は、入社して間もなかったり、すぐに社長にしたりしています。とどのつまり、イズムの理解度や実践などが足りなかった。体得しきれていなかったと思います。

 一方で、今回選んだ副社長のうち3人は、他社から来たといっても入社して約10~18年になる。いわば準プロパーです。あとの2人は約4年と1年だけど、指名委員会の委員長からも「日本電産の文化を会得している」と評価されているくらいだから大丈夫です。結局のところ、一番大事なのは、この会社が大好きで永守イズムをしっかり理解していて、この会社をもっと大きくしたいと思っているかどうかです。

 例えば、お客さんからクレームがあったら、自ら解決に動く。工場にも常に行って現場と一緒に改善を指導する。(車載など激しい競争の市場で戦うのだから)トップ自らお客さんのところを自ら回って営業もする。そのぐらい徹底しないと今は勝てませんよ。ただし、むやみなハードワークをしなければだめだというわけではありません。

どういうことですか。

永守氏:今、日本企業にとっては、中国がもの凄く強い競争相手になっていますね。その相手に納期などの時間で負けるようでは話にならないけど、それだけではないです。素晴らしい技術で対抗していくとか、新しいことをやればいい。それができるようならハードワーキングしていることになる。後継者には、そういう要素も必要なんです。もう時代は変わっているんですよ。

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