企業のパワハラ対策に欠かせない要素は大きく3つある。①経営陣がコミットメントし、②現場に仕組みを導入、それを③継続することだ。奇策は存在しない。愚直に対策に取り組む現場を見てみよう。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する可能性もあります
(1)威圧的な説教に公私の拘束も、なぜパワハラはなくならないのか
(2)いつの間にか「パワハラ大国」のニッポン ハラスメント保険に殺到
(3)あなたもパワハラ予備軍かチェック、「グレーゾーン」に気を付けろ
(4)「XXハラ」増殖のニッポン、ハラスメント大全を公開
(5)先進企業のパワハラ対策に学ぶ、ネットフリックスは撮影前に議論(今回)
(6)トヨタ、パナソニックが得た教訓、人権意識向上待ったなし
(7)「表に出るようになったのは救いがある」、スペイン指導者が語る日本サッカー界の現状
(8)「パワハラは上司のエゴだ」、元パワハラ上司が変心できた理由
(9)「パワハラ防止法」が中小に適用拡大も、対策進まぬ現場
(10)パワハラ誕生から20年、名付け親が抱く懸念「救済から排除の言葉に」

 「上司の指導がきつい。『そんなことも分からないのか』と言われるし、自分が話す時もため息をつかれる」

 大阪府に本社を置くパソコン修理大手、日本PCサービスのハラスメント相談窓口に若手社員からこんな相談が寄せられたのは2019年某日のことだ。担当者はメールが届いたその日のうちに通報者へ連絡。通報内容の詳細などを聞く面談の場が1週間ほどで設けられた。その後は被通報者となった上司や周りの同僚への聞き取り、社外の社会保険労務士との対応検討会議などが実施された。

 ハラスメントへの意識が高まっている昨今、「上司の厳しい叱責」と聞くとすぐにパワハラを認定してしまいがちだ。だが、日本PCサービスの事例は詳細な聞き込みの結果、パワハラとは認定しなかった。通報者の若手社員が再三、上司から業務指導を受けていたが勤務態度に改善が見られず、上司側のパワハラであるとは言い切れなかったためだ。

相談から1カ月で結論

 通報から結論を出すまでの期間はわずか1カ月。しかも対応を一手に担うのはわずか1人だ。厚生労働省の調査では約5割の企業が相談を受けても対応していない事実を考えると、驚くべきスピード対応と言える。

 従業員数が400人超の中堅企業とはいえ、なぜ迅速な対応が可能なのか。14年の株式上場以来、経営陣がハラスメント対策を最優先課題として取り組んでいるからに他ならない。相談窓口を一手に担う監査役の小関明子氏は窓口設置時からの1人担当で7年以上のハラスメント対応のノウハウがある。「クリアで風通しの良い職場づくりのためにハラスメント対応は必要不可欠」と語る。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り7106文字 / 全文8304文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「ガバナンスの今・未来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。