後継者の決まっている企業も事業の引き継ぎは一筋縄でいかない。「会社の寿命は30年」といわれるように、企業が築いた事業モデルは時間の経過とともに色あせてくる。そのため、次のビジネスモデルを模索する必要があり、その手法として注目を集めるのがベンチャー型事業承継だ。後継者が世代交代を機に家業の経営資源を活用し、新規事業や業態転換、新市場への進出によって新たな事業基盤づくりを進める取り組みであり、このタイプならではの課題解決に向けたサービスも充実してきた。

 「本当に大丈夫? もう一度プランを練り直したほうがいい」「持っている強みをもっと生かせるのではないか」

 一般社団法人ベンチャー型事業承継(東京・千代田)が開設する「オンラインサロン」(インターネット上の非公開のコミュニティー)は、後継者同士がお互いの事業計画を指摘し合う真剣勝負の場だ。ときには厳しい言葉が飛び交うことから参加者からは「壁打ち」とも呼ばれ、サロン経由でビジネスモデルと実現に向けた覚悟を磨き、新規事業にこぎ着ける後継者も多い。

 サロンのメンバーの1人で3月に新たな事業を立ち上げる志成販売(大阪市)の2代目、戦正典氏は「厳しいが、その分しっかり考えられた。本当にありがたい」と話す。父から引き継いだ本業はインテリア雑貨メーカー。戦氏は米シリコンバレーのIT企業に勤務した経験を生かし、拡張現実(AR)の技術を使ったサービス「AR Mall(エアモ)」を始める。スマートフォンで商品を「3Dで見せる」「好きな場所にレイアウトする」といったことが手軽にできる。

志成販売の戦正典氏はベンチャー型事業承継を実践する(写真:宮田昌彦)
志成販売の戦正典氏はベンチャー型事業承継を実践する(写真:宮田昌彦)

悩みの多い後継者、本気で語り合う

 事業承継を決めた後継者が新しい事業を画策する場合、特有の課題に直面することが少なくない。新たに事業を立ち上げる点ではベンチャーと同じだが、ゼロから始めるベンチャーと違い、後継者には先代との関係や番頭社員の処遇、新規事業に合った組織体制づくりなどにも取り組む必要がある。

 「後継者ならではの課題が多く、本気で語り合うオンラインサロンのニーズは根強い」と同法人の代表理事、山野千枝氏は話す。同サロンは会員制で「家業の10年先のメシの種をまく」ために入会時の年齢を34歳未満に限定。若い後継者が自ら動くための場づくりを目指す。

ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事(写真:尾苗 清)
ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事(写真:尾苗 清)

 戦氏の場合、米国から大阪・船場にある父の会社に戻るとすぐに「在庫が過剰だ」と気付き、まずはここから手を打った。知人の紹介で参加したオンラインサロンでその手法などを話すうち、参加する後継者の1人から「もっとキャリアを生かした新規事業に取り組むべきだ」とアドバイスを受けた。この言葉をきっかけに新サービスの開発に着手。自分でプログラムを書きながら、1年ほどかけて事業化にこぎ着けた。

 戦氏は「サロンで業種を超えたいろいろな視点から意見をもらったことが役立った。新サービスは3000~4000社ある卸先のECサイトを支援する仕組みとして売り込みたい」と意気込む。

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