「ここまでやるか……」

 今年1月末、グレイステクノロジーという東京証券取引所1部上場企業で起きた不正会計に対する特別調査委員会の報告書が、企業の財務担当者や会計士らを驚かせた。

 グレイスの中核事業は、建設機械や半導体製造装置など専門知識を必要とする機器の操作マニュアルなどの作成。1984年11月に、事実上の前身会社を創業者のA氏が起こし、2016年12月東証マザーズに上場、18年8月には1部に昇格している。

不正会計が発覚し、上場廃止となったグレイステクノロジーのホームページ
不正会計が発覚し、上場廃止となったグレイステクノロジーのホームページ
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 上場から5年余りで売上高は約2.5倍に伸び、独特の事業による成長企業として一部の機関投資家からの注目を集めてもいた。ところが、その売上高の約3~4割は不正による水増しだった。成長企業はなぜ粉飾の闇に転落したのか。監査法人はなぜ見抜けなかったのか。

上場前から不正、最後は売上高の4割水増し

 不正が発覚したのは昨年11月初め。詳細は公表されていないが、「外部からの指摘」で明らかになり、グレイスは同月、弁護士や会計士らによる特別調査委員会を設置した。その報告書によると、不正は創業者であるA氏を中心に役員と一部営業部員が実行したという。その手口は大胆なものだ。

 まず1つは、売り上げの早期計上。同社は本来、製品を納品し、受領証を受けて売上高を計上するルールだったが、それを早い段階で売り上げにカウントするというものだ。デジタル化したマニュアルなどは、完成していないと顧客の要求する機能を発揮できないが、分割納品してその都度売り上げを計上するなどしていた。会計上は認められないものだ。分割については、どうやって理解させたか不明だが、顧客の了解を得ていたという。

 だが、これはまだ“序の口”。手口の2つ目は、顧客からの引き合いなど、なんらかの見込みがあっただけで売り上げを計上したり、引き合いすらなく勝手に売り上げを計上したりというケースすらある。

 この不正会計をグレイスは少なくともマザーズ上場直前から毎年やっていた。上場前期の2016年3月期は、7億2600万円の売上高としていたが、その約2.78%が不正にかさ上げされたものだった。

 上場した17年3月期は、それが0.15%とおとなしくなったが、翌18年3月期は28.5%、19年3月期は33.5%と毎年増え続け、21年3月期には40.9%に達した。常軌を逸したように不正に突っ走っていったのである。

 しかも、監査法人(EY新日本監査法人)に分からないように巧妙に偽装をしていた。

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