経済ニュースアプリ「NewsPicks(ニューズピックス)」などを手掛けるユーザベースは2月7日、株式を非公開化した。前回「事業の全体を統合した『絵』みたいなものは、すごく弱かった」と語った佐久間衡Co-CEO(共同最高経営責任者)。雑誌的コンテンツでユーザーを獲得する「臨界点」(同)を感じる中で、どうメディア事業を成長に導こうとしているのか。今後の戦略を聞いた。
(聞き手は鷲尾龍一)
ユーザベースの創業が2008年、NewsPicksは13年に生まれました。さまざまなニュースサイトから記事を引っ張り、それに詳しい人がコメントするメディアは他にはなく、有料会員数は19.6万人(22年9月末)まで増えました。伸びたポイントは何でしょうか。
佐久間衡ユーザベースCo-CEO(共同最高経営責任者、以下佐久間氏):ひたすらスマートフォンに特化した点ですね。グラフィックなどスマホで分かりやすく、最先端の経済テーマを伝えていく。また「ビジネス芸能人」あるいは「ビジネスインフルエンサー」と呼べるような人材にフォーカスしたコンテンツです。大きく言うと、この2つのコンテンツの価値で成長してきました。ただ、これって雑誌的な価値なんですよね。『日経ビジネス』さんの前で言うのは嫌なんですけど……。

「日経ビジネスさんには悪いが、雑誌は別に毎日必要ない」
大変興味深いので、気にせず続けてください。
佐久間氏:言うのは嫌なんですけど(笑)。(NewsPicksの関連収益が頭打ちになっているのは)要するに雑誌の限界だと思う、正直。我々は有料会員数が19万人です。(10万~20万人という)そのあたりが雑誌的な価値、経済の領域で何かテーマに沿ったコンテンツや番組を提供し、ユーザーを獲得する臨界点というか、市場の限界なんじゃないかなというのはすごく感じますね。
雑誌的な価値というのは、テーマや課題意識を基に取材をして、仮説を立て、コンテンツにしていくといったような?
佐久間氏:いえ、違います。すごく簡単に言うと「別に毎日必要ない」という感じですね。1週間のうちに、いくつかすごい面白いテーマについての記事を読んで、それに満足して購読を継続するというのが雑誌的な価値だと考えています。
これ以上、会員数を増やすには毎週ではなくて毎日必要な価値をつくっていかなければなりません。それは次の領域、「ニュースの価値」なんですよ。NewsPicksの従来の成長は「コンテンツドリブン」でした。ただ、コンテンツは我々が「3つのC」と呼んでいるものの1つに過ぎません。
3つのCとは、コメント、キュレーション、コンテンツです。これらが融合する価値がNewsPicksです。これは新しいコンセプトでも何でもなくて、NewsPicksは「MagazinePicks」ではありませんからね。もともと3つの価値を融合させたかったはずなのに、コンテンツ中心の成長となってしまい、今その限界に来ているなと感じています。
これからは日々のニュースに振っていくのでしょうか。
佐久間氏:そうですね。まず、誤解のないようにしておきたいのは、オリジナルコンテンツは我々の根本です。ここが弱くなったら我々の存在価値がないので、しっかり稼いで、編集部の人員や、動画制作のクリエーターに投資をし、自由な環境をつくり、いいコンテンツを作っていくのはまず大前提です。その上で、他社とのパートナーシップで特定のテーマに沿ったニュースを集めて、専門家や当事者のコメントを掲載して、ニュース的な価値をつくっていく。
最近そういう取り組みを進めています。NewsPicksで「話題のまとめ読み」というのを試験的に始めました。例えば、トヨタ自動車の社長、豊田章男さんから交代したという最新のニュースに寄せられたいろいろな方のコメントをピックアップし、まとめて読めるようにしています。
どうコメントを集めてきているのですか。
佐久間氏:もう完全に人力です。人力じゃないと(コメントの良しあしが)分からないので。
これが、キュレーションということですか。
佐久間氏:そうです。いろいろな関連記事を紹介したり、時系列で並べたりしています。テーマ別のニュース価値をつくるトライアルです。日々、入れ替えながらつくっています。
内製のオリジナルコンテンツで雑誌的なものを残しつつ、ニュースのキュレーションと投稿されたコメントの見せ方を変えることによって、毎日アプリを訪れる理由をつくっていくという。
佐久間氏:特定のテーマに関するニュースに良いコメントが投稿されても、新しいニュースが出てくると、流れていっちゃうんですよ。おそらく2時間ぐらいは練って投稿されたコメントなのに、そのすごく価値のあるものが見失われるともったいないので、テーマにひも付けてもう一度見せる、という感じです。NewsPicksはどういうメディアかというと、新しくて多様な視点が見られるメディアです。基本に立ち返り、コメント、キュレーション、コンテンツが融合する価値をつくっていきたいですね。
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