経済ニュースアプリ「NewsPicks(ニューズピックス)」などを手掛けるユーザベースは2月7日、株式を非公開化した。米投資会社カーライル・グループがTOB(株式公開買い付け)などで全株を取得した。NewsPicksはスマートフォンに最適化したニュースメディアとして、サービス開始から10年足らずで有料会員数を約20万人まで伸ばした一方で、近年は成長が頭打ちになっていた。メディアの苦境が叫ばれる中、非上場化という道を選んだユーザベースはどのような将来像を描いているのか。佐久間衡Co-CEO(共同最高経営責任者)に聞いた。
(聞き手は鷲尾龍一)
今回、インタビューをお願いしたのは、ユーザベースが非上場化を決断した背景に強い興味があるからです。近年、上場スタートアップがあえて非上場化を選択し、構造改革に挑むケースが増えています。上場していては実現が難しい、成長ストーリーとは何でしょうか。特に業績が頭打ちになっているニュースアプリ「NewsPicks」をどう改革していくのでしょうか。
佐久間衡ユーザベースCo-CEO(共同最高経営責任者、以下佐久間氏):ありがとうございます。うれしい。何でも聞いてください。
![佐久間衡[さくま・たいら]氏](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/gen/19/00304/020600117/p1.jpg?__scale=w:500,h:334&_sh=03a0a70570)
なぜ、ユーザベースは上場をやめることを選んだのでしょうか。
佐久間氏:正直、一言ではなかなか言い表せなくて。社員に説明するときもどう伝えればいいのか悩み、1万字の文章を書いてシェアしました。無理やり一言にすると「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」ための意思決定です。
NewsPicksは大きな構造改革が必要なタイミングを迎え、「NewsPicksとSaaSの融合」を進めて、新たなエクイティストーリー(成長の道筋)をつくっていく段階にありました。ただ、さまざまな思いで投資されている株主の期待値をそろえていくのは、正直難しいなとも感じていました。そこでカーライルというパートナーと戦略を握り、構造改革を経て生まれ変わったユーザベースでもう一度上場することを実現したかった。それが理由ですね。
ユーザベースは、一般向けニュースメディアのNewsPicks事業と、「SPEEDA(スピーダ)」や「FORCAS(フォーカス)」といった企業向けのSaaS事業があります。毛色が異なるビジネスを抱えており、理解するにはやや複雑です。
佐久間氏:そうですね、かなり複雑です。
2008年創業。16年東証マザーズ上場。21年12月期連結決算(日本基準)は売上高が160億円、最終利益は5億8900万円。事業の柱は、世界約1000万社の企業データや業界リポート、M&A情報などを集めたデータベース提供サービス「SPEEDA」といったSaaS事業と、さまざまなメディアからニュースを集めて、1つのアプリで読めるようにした「NewsPicks」という2つがある。
NewsPicksはスマートフォンに最適化した読みやすさだけでなく、「プロピッカー」と呼ぶ専門家が解説コメントを投稿する点が原動力となって成長した。オリジナルコンテンツも掲載している。新型コロナウイルス禍では、人々が正確で詳しい情報を求める傾向が強まり、ユーザベースの株価は4000円超まで上昇した。ただ、2020年11月、7500万ドル相当で買収した米クオーツ(Quartz)メディア事業から撤退すると、株価は徐々に下落。NewsPicks関連の売上収益の停滞もあり、株価は1000円を割り込むまで落ち込んだ。22年11月、非上場化の方針を明らかにした。
「期待値をそろえることが難しい」とおっしゃいました。コロナ禍で人々が情報に飢えていたときは、御社に限らず、ニュースメディアは好機と見ていました。ただ、熱が冷めた今、NewsPicks関連の収益は伸び悩み、他方で企業向けのSaaS事業は順調に伸びています。方向性の異なるサービスに対する株主の期待が入り乱れ、融合を推進するのが難しくなったという「悩み事」を抱えていたということでしょうか。
佐久間氏:悩み事。本当にそれですね。例えば、NewsPicksに本当に期待している投資家の方もいらっしゃれば、逆に、「佐久間さんのアテンション(注意)を全部SaaSに振った方がいい」と言う投資家の方もいました。我々がちゃんと「SaaSとメディアを融合したもので大きな成果が出せるんだ」と、結果で示せていればいいのですが、そこは時間がかかると考えています。その過程のギャップがどうしても存在し続けてしまう、というところが大きかったですね。
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