公正取引委員会は1月、脱炭素を狙った企業の協業を促進するため、独占禁止法のガイドライン案を発表した。パブリックコメントなどを経て、正式に決定する。企業が共同で新たな脱炭素技術の開発や、環境負荷が小さい材料の調達に取り組むとき、独禁法に違反しないかを懸念し、障害になることがある。公取委があらかじめ考え方を示すことで、脱炭素の停滞につながりかねない過度な萎縮を無くす狙いがある。とはいえ、脱炭素が消費者や社会にもたらす利益をどう評価するか、明瞭な方法は確立していない。シロかクロかの明快さを求める企業側と、「総合考慮」を掲げる公取委の歩み寄りはこれからの課題だ。

 「我々としても非常に苦労した」

 公正取引委員会の担当者は記者説明会で、ガイドライン策定の経緯をこう振り返った。公取委は2022年10月に有識者が参加する検討会を発足し、年末までに3度の議論を実施。脱炭素を巡る企業の協業で実際に起こりそうな75の想定例を挙げた。「グリーン社会の実現に向けた事業者の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い」と強調しつつ、「独禁法上問題とならない行為」「なる行為」「問題とならないよう留意を要する行為」に仕分けした。

 想定例は4つの分野に大別される。①研究開発や自主基準の設定など共同の取り組み、②取引先の事業活動に対する制限や取引先の選択、③優越的地位の乱用行為、④企業結合(M&A)だ。脱炭素で先行する欧州のガイドラインは、①などがターゲットとなっており、①~④を包括的にまとめた日本の取り組みは、世界的にも珍しいという。

 なぜ、このようなガイドラインが必要だったのか。脱炭素に向けた新技術の研究や、クリーンエネルギーの開発、環境に優しい素材の採用は、企業にとって短期的にコスト増加要因となり得る。また、脱炭素に消極的な企業が低価格を打ち出して市場シェアを高めたり、戦争やエネルギー不足で脱炭素の目標が後ズレしたりすれば、脱炭素に積極的な企業が損を被りかねない。こうしたコストの増大や、将来の不確実性を最小化するために、企業同士が連携を考えるのは自然な流れだ。

 こうした取り組みの多くは「基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い」(ガイドライン)。だが、世界を見渡すと実際に協業し、独禁法に問われるケースが出てきているのだ。

 欧州委員会は21年、ドイツの自動車メーカー5社がディーゼルエンジンの排出ガスから窒素酸化物を削減するための技術開発の仕様で合意したことについて、競争法違反と認定して8億7500万ユーロもの制裁金を科した。法律で定めた基準より優れた浄化性能の開発が技術的に可能だったにもかかわらず、談合によって競争が制限されたと判断した。この事例には様々な見方があるが、日本でもイノベーションを阻害する企業同士の合意は厳正に対処するのが原則となる。

(写真=毎日新聞社/アフロ)
(写真=毎日新聞社/アフロ)

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