コスト優位性や効率だけではない価値観がサプライチェーンを根底から変える──。そんな動きが顕在化しはじめた。特にSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)といった新たな文脈が与える影響は今や無視できなくなってきている。

 生産工程での水の使用量や、廃棄される売れ残り商品──。ここ数年、アパレル業界では環境負荷に対して厳しい目が向けられるようになっている。Tシャツ1枚に使用される水の量はおよそ2720リットル。綿花栽培は耕地面積で3%ほどしか占めないが、世界で使用される殺虫剤のうち約16%が綿花栽培に使用されているという報告もある。さらには13年にバングラデシュで縫製工場の入った商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊事故に見舞われたのを発端として、劣悪な労働環境も取りざたされるようになった。

 そうした中、環境負荷や労働環境などのパフォーマンスを数値化する「Higgインデックス」という指標を活用するアパレルメーカーやサプライヤーが増えている。この指標は、米サステナブル・アパレル連合(SAC)が提供する評価ツールだ。環境や社会に与えるインパクトをサプライチェーン全体で評価する国際的な仕組みづくりを目指し、スウェーデンのH&Mやドイツのアディダス、アシックス、東レなど大手のグローバルブランドが採用している。

 国内アパレル大手アダストリアの子会社であるアドアーリンク(東京・渋谷)も、Higgインデックスを採用する一社だ。2021年3月にサステナビリティー(持続可能性)の実現を前面に打ち出したアパレルブランド「O0u(オー・ゼロ・ユ―)」を立ち上げ、Higgインデックスを基にした環境負荷データを製品ごとに公開しはじめた。

アドアーリンクの新ブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」

 再生繊維の使用や、廃棄を減らすための小ロット多品種生産、素材のトレーサビリティ確保など、サプライヤーへの要求もこれまでとは異なる内容が多くなる。生産管理チームの平松仁志リーダーは「実際は糸をどこから買っているか分からないようなメーカーもまだまだ多い」と指摘する。従来の製品であれば、中国メーカーから生地を調達することが多かったが、オー・ゼロ・ユーでは国内メーカーからの調達割合も増えた。「トレーサビリティーの確保は、自分たちが製品に責任を持つという意味でも重要。リスクの回避にもつながる」とアドアーリンクの杉田篤社長は話す。

製品ごとにHiggインデックスに基づく環境負荷スコアを公開する

 業界全体でこうした動きが強まれば、必然的に環境対応や情報開示に積極的なサプライヤーの存在感は高まる。繊維商社やサプライヤーからは、環境保護やエシカルに関する国際認証を積極的に取得したことが、国内外での取引拡大につながったという声も聞こえる。

 国内外のアパレルメーカーにファスナーを提供するYKKの元にも、取引先であるH&Mや米ナイキなどからHiggインデックスに基づくセルフアセスメントとその結果開示の要望が届いた。中国・アジアの主要工場を中心に16年からHiggインデックスの活用をスタート。18年には自身もSACに加盟した。

 SDGsの推進やサステナビリティ―の実現は、大手メーカー単独の力ではなし得ない。サプライチェーン全体を巻きこめるかどうかが鍵となってくる。

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