米中の覇権争いに新型コロナウイルスの感染拡大、地球規模の気候変動──。経済効率を優先して企業や国が構築してきたサプライチェーンが今、危機にさらされている。国際的な課題から身近な問題まで。あらゆるところに供給網のリスクが潜んでいる。

リスク1:人手不足 陸も海も目詰まり

 2021年3月、地中海とインド洋を結ぶスエズ運河で発生したコンテナ船の座礁事故は世界中に衝撃を与えた。運河の通航自体は1週間後に再開したが、実は影響はなお続く。

 「到着したのに積み荷を降ろせない」。5月中旬、国内海運大手3社がコンテナ船事業を統合したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の船が米最大級の貨物港ロサンゼルス港とロングビーチ港を目前に、停泊を余儀なくされていた。原因は「コンテナの渋滞」だ。港のコンテナ保管スペースがパンクし、新たに到着した船からコンテナを降ろす余裕がないのだ。「通常なら長くても3日だが、1~2週間待ちもざらにある状況」(ONEの山口敦シニア・バイス・プレジデント)という。

 底流には新型コロナウイルスの影響がある。感染対策などで港湾で働く人手が不足し、コンテナを荷主に引き取ってもらう作業が停滞。さらに、荷主からのコンテナの返却も玉突き的に遅れが発生し、混乱が拡大した。この状況に拍車をかけたのが、スエズ運河での通航止めと再開だった。

 新たに荷物を送ろうにも、コンテナが返ってこず不足気味で、安定的なサービスの維持は予断を許さない。結果、中国・上海から米国向けの主要ルートの運賃(スポット=随時契約)は4月に入り、2009年以来の最高値を更新してしまった。ONEなど海運各社は港湾側と効率的な積み下ろし計画を練るなどして解消を目指すが、正常化は道半ばだ。ある国内部品メーカーの関係者は「輸送計画が読めず、販売機会ロスが心配だ」とため息をつく

 不安要素は陸上物流にもある。いま国内の運送業者の間でささやかれるのが「2024年問題」だ。働き方改革の一環で、24年4月にトラックドライバーにも時間外労働の上限規制が設けられる。1台のトラックを長時間動かすことで成立してきた輸送ルートが使えなくなったり、ドライバーの頭数が不足したりするとの見方が強まっている。

吉田運送は港から離れた中継拠点を整備して、コンテナ輸送を効率化しようとしている(茨城県坂東市の拠点「インランドデポ」)

 日通総合研究所の佐藤信洋氏は「人口減に加え、40歳以下の層では運転免許を取らなくなっている。トラックドライバーになり得る母体が減っており、5~10年後の担い手不足は厳しくなる」と話す。

 国土交通省や運送会社の業界団体である全日本トラック協会も手をこまぬいているわけではない。20年4月に標準的な運賃を告示して、報酬面でドライバーの仕事の魅力度を高めることで人材確保を狙うが、「依頼者である荷主との交渉はなかなか進められない」(関東の中小運送会社)のが現実だ。茨城県を拠点とする吉田運送の吉田孝美社長は「昔のように『稼いでいつかは社長に』という人は少ない。賃金引き上げによる人材確保は簡単にはいかない」と話す。

 解決策があるとすれば、現状の輸送の効率化だ。吉田運送では、交通の便の良いエリアにコンテナの中継拠点を設置。コンテナを一度に運ぶ距離を小刻みにすることで効率的な配送を実現しようとしている。

 デジタル技術も効率化の有力な手段だ。ラクスルが手掛けるサービス「ハコベル」は、効率的な配送ルートや計画をソフトウエアを使ってすぐに割り出す。ただ、国内物流業界は中小零細企業が多く余裕がないため、新たな仕組みの導入には及び腰になりがちだ。残された時間はもう3年を切っている。

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