浮かんでは消えた日の丸ファウンドリー構想

 国内ファウンドリー構想は初めてではなく、これまでも何度も浮かんでは消えた。半導体工場の固定費の重さに苦しんだ電機大手や半導体各社では、危機の度に日の丸ファウンドリー待望論が持ち上がった。

 2000年に茨城県で日立製作所と台湾UMCが合弁で設立したトレセンティテクノロジーズは失敗。06年には日立、東芝、ルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)が半導体を共同生産するシナリオを描いたが、足並みがそろわず交渉は破談した。数年後、ある東芝幹部は「生産に専念した強い会社を立ち上げる最後の機会だった」と振り返った。

 経産省はファウンドリー会社を誘致する際に、国内半導体メーカーとの合弁を視野に入れる。しかし、かつては「お荷物」だった量産工場が再びもてはやされる状況に、半導体メーカーは困惑する。ある企業の経営幹部は「過去10年、工場閉鎖や縮小にどれだけ苦労したか。果たして経済性はあるのか」と打ち明ける。

 過去のファウンドリー構想が頓挫した理由の一つは、「需要創出という発想がすっぽり抜け落ちていた」(半導体メーカー経営幹部)からだ。電機大手は半導体工場を自前のデジタル家電や携帯電話向けのシステムLSIで埋めようとした。しかしガラパゴス化した国内市場向け製品が多かったため、半導体工場の稼働率を維持するだけの需要はなかった。また自動車産業は現在ほど先端半導体を必要としていなかった。

 寝た子を起こした格好の経産省だが、刀禰氏も工場誘致が高いハードルということは分かっている。成功させるには「補助金のようなインセンティブ、これは与党の力を借りながらしっかりやっていかなければいけない。しかしこれだけではきつい。もう一つ、お客さんがいるかが重要。これには産業界のコミットが欠かせない」。

 5Gやデータセンター、自動運転などIoTデータ社会に向かってAI(人工知能)チップが必要となり、自動車や電機や情報通信会社などにとって半導体は事業戦略上欠かせないキーデバイスになる。こうした企業群が半導体開発に力を入れ、さらには過去にはなかった投資負担にも応じることが必要になりそうだ。

 オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクターは「半導体戦略で負けた国はデジタル社会やカーボンニュートラルなどあらゆる産業に関わるキーテクノロジーでも出遅れることになりかねない」と警鐘を鳴らす。国際戦略物資として希少価値が高まった半導体調達に訪れたパラダイムシフト。「先端半導体の開発や量産というミッシングピース」(刀禰氏)を埋められるのか。日本の本気度が問われている。

 凋落(ちょうらく)した日本の半導体産業だが、製造装置や材料には世界トップクラス企業がきら星のごとく存在する。次回は半導体の製造装置や材料を手掛ける日本企業の動きを取り上げる。

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記事公開当初、EUの投資額を「18億円」としておりましたが、「18兆円」の誤りでした。[2021/5/27 10:10]

この記事はシリーズ「今そこにあるサプライチェーン危機」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。