自主的にワクチン接種を望む人を増やすにはどうすれば?

 「ワクチン接種を強制することについてどう思いますか?」と医療者に問えば、ほとんどが「許されることではない」と答えるだろう。特に、病院長・理事長、行政に携わる医療者、公衆衛生学者、感染症専門医らがメディアに取材されたとしたらそのように答えるのではないか。

 だが実際はどうだろう。例えば、ワクチンは受けないという看護師が仮に転職活動を開始し、あなたが院長を務める病院/診療所に履歴書を持ってやってきたとしたらどうだろう。

 次に患者の視点から考えてみよう。ワクチン未接種の看護師の勤務するX病院は「ワクチン忌避の医療者が働いている」という噂が絶えない。その一方で、X病院の近くにあるY病院では、入口に「当院の従業員は全員コロナワクチンを済ませています」と掲示されているとすれば、どのようなことが起こるだろうか。

 話を再び当院の患者A君に戻そう。A君が仮に海外事業に興味があって商社を目指しているとしよう。A君が懸念しているようにワクチンを打たないと決めたことで就職に不利になることはないだろうか。

 もっとも、ワクチンを打っていなければ仕事ができないという“ルール”は今に始まったことではない。例えば、医学生や看護学生にとってB型肝炎や麻疹のワクチンは事実上の「強制ワクチン」といえるだろうし、教職者や教育実習生は麻疹、風疹のワクチンが義務になっていることも多い。ガーナやカメルーンなどアフリカのいくつかの国では黄熱ワクチンを接種しなければ入国が認められない。

 ワクチンを強制せず、自主的にワクチン接種を望む人を増やすためには、まず、SARS-CoV-2のワクチンの安全性をきちんと示すべきだろう。今後、100万人当たりの死亡率は麻疹やインフルエンザと変わりありません、ということが実証できれば反ワクチンの流れは縮小していくのではないだろうか。

 もう一つ、社会にとってどうしても必要なのは「特効薬」だ。日本を含む幾つかの国や地域ではインフルエンザワクチンに反対する意見が根強いが、インフルエンザワクチンを接種しなくてもそれほど厳しい非難を浴びることはない。その理由の一つは抗インフルエンザ薬があるからではないだろうか。要するに、インフルエンザはCOVID-19に比べると治癒しやすく、たいした感染症ではなくなっているわけで、その大きな理由は特効薬があるからだ。

 SARS-CoV-2ワクチンの安全性が確立し特効薬が登場するまでは、ワクチン未接種者への行動制限を求める声はなくならないだろう。海外渡航のみならず、今後は国内旅行、レストランや劇場、コンサート会場などでもワクチンパスポートのような話が出てくるのではないか。就職に向けてのワクチン接種の是非はこれから深刻な社会問題となるだろう。

 その差別に立ち向かうために我々医療者は何をすべきなのか。名案は思い浮かばないが、「外部への問題提起の前にまずは身内から」というのが僕の基本的な考えだ。だから、まずはvaccine hesitancyの医療者の気持ちを理解することから始めようと考えている。

谷口 恭(たにぐち やすし)氏
太融寺町谷口医院
1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

この記事はシリーズ「新型コロナと闘う「医療最前線」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。