この記事は日経メディカル Onlineにコラム「谷口恭の『梅田のGPがどうしても伝えたいこと』」として7月15日に配信したものを、日経ビジネス電子版に転載しています。

 国内では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)向けのワクチンについて、打つことを強制してはいけないと言われている。だが、事実上の“強制”が今後生まれるかもしれない。

 実際、米国ではワクチン拒否者が解雇される事態となっている。CNNの報道によれば、Houston Methodist Hospitalの153人もの従業員が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチンを打たなかったという理由で自主退職を強いられたか、もしくは解雇されている。

 例えば、当院をかかりつけ医にしている大学生A君からの相談を紹介しよう。

 喘息とアトピー性皮膚炎を中心に、中学生の頃から当院をかかりつけにしている大学3回生のA君。学校でワクチンが打てるようになると聞いたが、幼少時に複数の薬剤で薬疹が生じたこともありできれば打ちたくない。20歳代前半なら感染してもほとんどが軽症で済む感染症に対して、登場して間もない、しかも既に20歳代が4人も死んでいるワクチンを打つのには抵抗があるという。学校に相談すると「ワクチンは義務ではなく必ずしも打つ必要はない」と言われたが、「ワクチンを打たなければ就職に不利になる」という噂がまことしやかに流れている……。

 現在、似たような相談が当院の20歳代の患者から相次いでいる。中高年に比べて若者の間でSARS-CoV-2のvaccine hesitancyはそれなりのムーブメントになっているようだ。その理由として、A君を含む当院の患者がよく言うセリフが「感染して死ぬよりもワクチンで死ぬ確率の方が高いことに納得できない」というものだ。

 数字だけ見ると、6月末までにワクチン接種後数日以内に死亡した20歳代は4人、感染して死亡した20歳代が8人で、母数の取り方や解釈の仕方によっては、ワクチンで死亡する確率の方が高いように考えるのだろう。

 他方、当院の若い患者の一部には「一刻も早くワクチンをうちたい」と訴える者もいる。中には「日本ではまだまだ順番が回ってこないから海外で打とうと思う」という者もいて興味深い。現在、米国とUAEでは、国籍に関係なく会場に行けば誰でも無料でワクチンを受けられるらしい。なぜ彼(女)らが早い接種にこだわるのかといえば、留学やワーキングホリデーに有利だと言われているからだ。その真偽は別にして、日本人を受け入れる国からすればワクチンは済ませておいてほしいというのが本音だろう。我々日本人も「海外のオリンピック関係者は来日前にワクチンを打って来てほしい」と願っているのではないか。

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