Critical Thinkingの国で起こっていること

 もっとも、免疫不全でない人々でも、NPI(Non-Pharmaceutical Intervention; マスクなどの公衆衛生)を続けることが重要だということは、多くのエキスパートたちが数理モデルなどを基に訴えている(JAMA Netw Open. 2021;4:e2111675.)。最近は社会に広がる安心感もあってか、マスクの人気は下がるばかりだ。しかし、マスクもワクチン接種も、自分だけでなく見知らぬ他人を守るために、個人的な不便やリスクを負ってでも一人ひとりが担わなければならないものではないだろうか。

 しかし、マスクを着用するか否かについては、米国では政治的な問題に発展した。「個人の自由を制限している! 政府が個人を乗っ取るのか」と抗議する人々と、「シートベルト着用は法で定められているのだから、マスクもまたしかり」と答える人々との間で分断が広がっていた。

 そんな中でも、ワクチンの接種は順調に進んでいるように見え、新型コロナの感染者数も死亡者も劇的に減少した。このため今は、米国全体がお祭りムードに包まれている。

 ただ実は、米国内でワクチン接種を完了した人(2回目を接種してから2週間以上経過した人)の割合は、この原稿を書いている6月中旬時点で、まだ40%台前半と伸び悩んでいる。その背景には、ワクチンを接種する人の数が4月以降減り続けているという事情がある(こちらで、ワクチン接種者数の推移や州ごとのワクチンの接種率が分かる)。要するに、ワクチンを打ちたい人は大方打ち終えてしまい、後は「打ちたくない人」がたくさん残っているのだ。

 米国の教育現場では「Critical Thinking」が重視され、小学校低学年の息子も既にそのような教育を受けている。人から言われたことを一度は疑い、自分の頭でちゃんと理解する、というのは確かに重要なことだ。にもかかわらず、「ウイルスは小さいからマスクをしても意味がない」「新型コロナはワクチンを売るために捏造したウイルスだから、あえてワクチンは打たない」「ワクチンの中にはマイクロチップが入っていて、プライバシーがなくなる」──などといった荒唐無稽な噂をいまだに信じている人々がいるということには、開いた口がふさがらない。

 とはいえ、先の臓器移植後の人たちの研究でも見たように、自分の頭で考えるCritical Thinkingが、朗報を導くこともある。被験者の半分が、3回目接種にJohnson & Johnson社製ワクチンを接種していたというデータを見ると、「mRNAワクチンを打っても抗体ができなかった! Darn it(チクショウ)! じゃあ違うタイプのワクチンを打ってみるか」と各自が判断して接種を受けたのだろうと想像できる。これが、免疫抑制薬を服用していて2回のワクチン接種では抗体を得られなくても、3度目の正直は起こり得るという発見につながったのだ。

 ただ、その3回目の接種を受けた時に被験者は「ワクチンをまだ接種していない」と嘘をつかなければならなかったはずで……。同じことを日本ではそうそうできないだろうし、この辺りも実に米国らしい話である。

緒方さやか(おがた さやか)氏
婦人科・成人科NP
親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にある病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

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